研究課題/領域番号 |
19K21884
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分16:天文学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野田 博文 大阪大学, 大学院理学研究科, 助教 (50725900)
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研究分担者 |
林 佑 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 量子場計測システム国際拠点, 研究員 (00846842)
武井 大 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 客員研究員 (10709372)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2020年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2019年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | X線干渉計 / 超伝導遷移端型X線マイクロカロリメータ / X線天文学 / ブラックホール / 超電導遷移端型X線マイクロカロリメータ / マイクロマシニング / 活動銀河核 / 放射光実験 |
研究開始時の研究の概要 |
高い空間分解能を持つ「宇宙X線干渉計」を実現する一つの方策は、幅の狭い干渉縞でも捉えられる、高い光子入射位置の特定精度を持つX線検出器を開発することである。そこで本研究では、超伝導遷移端型X線マイクロカロリメータ技術を応用した「高位置精度X線検出器」を開発する。最初のステップとして、X線光子の入射位置を1 μm未満の高い精度で測定することを目標に据えると同時に、超電導遷移端型X線マイクロカロリメータの強みを活かした高いX線分光性能の実現にも挑戦する。
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研究実績の概要 |
一台の人工衛星に搭載可能な小型の宇宙X線干渉計に向けて、2つのTi/Au(40 nm/90 nm)超伝導遷移端型マイクロカロリメータ(TES; 140 μm × 140 μm)を1つの吸収体(1.2 mm × 20 μm × 1 μm)で接続し、2つのTESのパルスの立ち上がり(rising edge)の時間差を利用することで高い精度でX線光子の入射位置を特定できるX線センサーの開発を進めている。当該年度は、製作した高位置精度X線センサーを100 mKに冷却し、55Fe線源によるX線照射実験を行なって得られたデータの詳細な解析を行った。その結果、X線吸収体の中心から0.5 mmの位置にX線光子が入射すると、2つのTESのパルスのrising edgeに~5 μsecの時間差が生じていることを明らかにした。ここから、パルスの立ち上がり時間差をnsecの精度で捉えることにより、sub μmの精度でX線入射位置を特定できる見込みを得ることができた。これらの結果をまとめ、国際学会「SPIE2022」にて口頭発表するとともにproceedingとしてまとめた。 さらに、高位置特定精度X線センサーによるsub μmの位置分解能と複数のX線平面鏡と組み合わせることで、数mのサイズでミリ秒角程度の角度分解能を実現できる可能性があるた宇宙X線干渉計のデザインを検討し、国内研究会「2040年代のスペース天文学」にて口頭発表した。また、検討した宇宙X線干渉計のデザインに基づき、放射光施設にて高位置特定精度X線センサーと複数のX線平面鏡を組み合わせてX線干渉縞を取得するための実験の検討を進めた。複数の国際・国内研究会に参加し、宇宙X線干渉計の観測ターゲットとなる活動銀河核をはじめとするX線で明るいコンパクト天体についての最新の研究について情報収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
X線吸収体に入射した光子の熱量が2つの超伝導遷移端型マイクロカロリメータ(TES)ピクセルに分割され、パルス波形の立ち上がり(rising edge)の時間差からX線光子入射位置を特定できるかを検証するため、ここまで、実際にシリコン基板から素子を製作し、~100 mKまで冷却して両ピクセルとも超伝導状態に転移することが確認できた。さらに、55Fe線源を用いてX線照射実験を行い、1つの光子の入射で同期する2つのTESパルスを取得することができた。そして、2つのrising edgeの時間差が、光子の入射位置によって変化することがわかり、詳細な解析によって、nsecの精度で時間差を捉えることができればsub μmの位置分解能を実現できる見込みが得られた。また、この位置精度を用いることで、一台の人工衛星に搭載可能な数mサイズの宇宙X線干渉計のデザインの検討も進められた。これらの結果や検討について国際学会や国内研究会で口頭発表を行い、広く共有することができた。これらの理由から、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
宇宙X線干渉計の観測ターゲットとなるブラックホールなどのX線で輝くコンパクト天体の多くは連続放射をしているため、様々なエネルギーのX線光子が混じることでX線干渉縞がぼやけてしまう。そのため、高い位置分解能と同時に、ある程度のエネルギー分解能を持たせ、特定のエネルギー範囲のX線光子を選びださないと干渉縞を捉えることが難しい。本研究で開発している高位置精度X線センサーは、高エネルギー分解能を実現できる超伝導遷移端型X線マイクロカロリメータ(TES)を応用しているが、一つのX線光子の熱量を2つに分割し、細長い形状のX線吸収体を通して読み出すため、どの程度のエネルギー分解能が実現できているかが重要な課題となる。そこで、今後の研究では、センサーの冷却およびX線照射実験を進め、エネルギー分解能の評価を進める。この時、光子の入射位置によって、2つのTESのパルスの波形が変化するため、入射位置ごとに区切ってエネルギー分解能を調べるなど、実験手法や解析方法を最適化したい。加えて、放射光施設にて平面鏡と組み合わせ、宇宙X線干渉計と同様のセットアップで実際にX線干渉縞を取得するための実験の検討および準備を進める。国内・国際研究会に参加して成果を発表するとともに、様々な波長における干渉計などを用いた高空間分解能観測の最新の結果について情報収集を行い、宇宙X線干渉計の最適なターゲットの候補を選定したい。
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