研究課題/領域番号 |
19K22305
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分39:生産環境農学およびその関連分野
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
林田 信明 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (80212158)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2019年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 形態制御遺伝子座 / ドローン / マッピング / ハクサイ / 分離集団 / 圃場 / 3D画像 / レタス / UAV / ゲノム解析 / ディープラーニング |
研究開始時の研究の概要 |
作物の形状は、食感や成長速度、耐病性等に関わる重要な形質である。しかし、それを支配する遺伝子についてはほとんど明らかにされておらず、多くの作物の品種改良は表現形を指標に育種家の努力と経験によって進められている。着目する形質とその原因遺伝子座の関係を明らかにするためには、大きな分離集団を作成し多大な時間と手間を掛けて評価と解析を行う必要がある。そこで本研究では、指標の設定と評価の効率化を目標として、圃場のドローン撮影と機械学習(とりわけディープラーニング)を遺伝子探索に用いる試みを行う。
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研究実績の概要 |
本研究は、ゲノム解析にドローン技術と深層学習(AI)を導入し、作物の圃場形質を支配する遺伝子の探索法に革新的な技術体系を提案し、実証することを目的としている。2019年度には実験を実施するための環境整備を、2020年にはドローンによる画像情報取得の条件を検討した。2021年にはレタスの交雑後代の圃場を撮影し、成長速度に関する遺伝解析を行なった。2022年にはハクサイについても成長速度に関する遺伝解析を実施した。 作物の形状は、食感や成長速度、耐病性等に関わる重要な形質である。しかし、それを支配する遺伝子についてはほとんど明らかにされておらず、多くの作物の品種改良は表現型を指標に育種家の努力と経験によって進められているのが現状である。着目する形質とその原因遺伝子座の関係を明らかにする作業は時間と手間がかかり、分子生物学や遺伝学の視点だけでは限界が見えていたため、全く異なる視点からのアプローチが必要であった。 そのため、本研究では材料のハクサイ分離集団を作成し、圃場でドローンによる自動撮影を行い、その画像に紐付けした遺伝子情報(ゲノムデータ)と共にAIに学習させることを試みる。初年度の2019年には、研究費の交付によって必要な機材の調達と準備を行った。また、用意したハクサイ分離集団に対して目視による評価を行い、本研究の材料として適切であることを確認した。2020年にはドローンによる撮影を実施し、対象とした個体ごとの3D画像を経時的に作成し、最低限の準備が整った。しかし、コロナ禍の影響でこれらの条件の改善に十分な時間がかけられず、他大学の助言者の協力を得ることもままならなかった。2021年度には、長野県野菜花き試験場のご好意でレタス圃場の撮影を実施し、遺伝解析も行った。ハクサイについてはAI による植物体の認識が難航し、2022年はその問題の解決に多くの時間を費やした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年には許認可の関係でドローンを飛ばせなかったので材料としたハクサイ分離集団(F2S1)に対し目視による評価を行い、十分な多型が存在し、本研究の材料として適切であることを確認した。 2020年には、約800個体からなるF2S1群を作付けし、約10回の航空撮影を実施し、対象とした個体ごとの立体画像を経時的に作成することができた。しかし、撮影時の露出や分解能(飛行高度)等の課題が明らかとなり、AI解析には至らなかった。 そこで2021年には、天候に合わせて露出を絞り込んだり飛行高度を下げるなどの撮影条件の調整を行うと共に、圃場をマルチで被覆して画像のバックグラウンドを消去しやすくするなどの改良を行なった。これにより、実験に用いたハクサイとレタスのF2S1群の圃場全体の立体画像を数日おきに取得し、各個体の成長曲線を一括して作成し、これを用いて成長に関するQTL解析を行うことが出来た。成長速度に関連する遺伝子座を極めて簡便に見出したことになる。 しかしながら、当初目標としていたAIによる画像解析はまだ入り口に立ったに過ぎず、その遅れの最大の要因はやはり新型コロナによる各種の制限にあると考えられる。教員や学生の学内への立ち入り制限や、助言をお願いした学外の研究者との情報交換が十分にできなかった事が、大きな律速要因となった。また、ドローンによる撮影についても、当初見込んでいた外葉の形状の判断にはまだ解像度に不満があるにも関わらず、これ以上低空からアップで撮影しても画像データが膨大となりすぎてPC での処理がうまくできなかったり、ドローンの起こす風で葉が煽られてしまって安定して撮影ができなかったりという問題に突き当たっており、もう一段のブレークスルーが必要となっている。さらに、このままでは教師データの不足により、AIによる葉型の学習が困難となると予測された。
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今後の研究の推進方策 |
昨年までに得られた画像データでは、各個体の画像を切り出して深層学習(AI)に用いる際の解像度が不足しており、葉の一枚一枚を認識できなかった。そのため、今年度はハクサイ自殖集団(F2S1)群約800個体を改めて圃場に展開し、より高い解像度と彩度で、各個体の高品質な画像を安定して撮影する条件を模索し、より多くの撮影を行うことで良質な教師データの確保を試みる。 また、これとは別に、個体から切り離した個別の葉の形状を3D撮影し、これを学習データに加えることで個別の葉を認識できるように事前学習させたAIに植物個体を学習させることを試みる。 これらの学習により、「成長が早い」「葉がカールする」など、特定の性質を持つハクサイを認識できるようであれば、各々の親世代(F2)の遺伝情報(RAD Seq)データを紐付けて、改めて学習を行う。次いで、カッピングや結球性など、すでに研究代表者が遺伝子座を明らかにした形質の極端な画像を判別させ、それと関連が深いとコンピュータが判断した遺伝子多型を表示できるか調べる。特定の遺伝子多形が示された場合、これをゲノムの参照配列と比較して位置を判定し、過去の研究と一致するかを評価する。さらに、まだ評価していない形質(定植直後の成長速度など)についても、遺伝子座の探索を行う。
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