研究実績の概要 |
本年度は、昨年度から継続してπ拡張ヘリセンをはじめとするらせん構造を有するナノグラフェンの多段階合成と物性評価を推進した。ジグザグエッジを導入したπ拡張[5]ヘリセン構造を有するジベンゾ[a,m]ジナフト[3,2,1-ef:1',2',3'-hi]コロネン(DBDNC)は、近赤外領域における発光や比較的長寿命の誘導放出を示すことが昨年度に見出されていたが、さらなる国際共同研究により655 nmと700 nmの2波長で同時に自然放射増幅光を示すという特異な光学物性が明らかとなった。また、DBDNCの合成で得られた知見に基づいて前駆体構造を拡張することにより、π拡張ダブル[5]ヘリセン構造を有するヘキサベンゾペリヘキサセン(HBPH)の合成にも成功した。[5]ヘリセン部位にtert-ブチル基を導入しエナンチオマーを安定化することで、キラルカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(キラルHPLC)による光学分割が可能となり、円二色性分散(CD)測定を通して616 nmで0.017、770 nmで0.006という比較的大きな異方性因子が示された。また、HBPHは蛍光極大波長が798 nmにも関わらず絶対量子収率41%の発光を示し、近赤外発光材料としても期待される。さらに、昨年度に合成と単離に成功した大型のらせん構造を有するπ拡張ダブル[9]ヘリセンの物性評価も行い、絶対量子収率18%の750から1100 nmに至る幅広い近赤外発光が示された。キラルHPLCによる光学分割にも成功し、CD測定により異方性因子は590 nmにおいて0.019と決定された。一方で、超高真空下、金属表面上でのらせん構造を有するグラフェンナノリボンの合成を志向した実験を共同研究で行ったところ、前例の無い転移反応が見出され、5員環や7員環を有する非平面状の新奇磁性グラフェンナノリボンの開拓にも繋がった。
|