研究課題
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
日本住血吸虫症はアジアの農村や漁村で流行し、家畜動物から中間宿主貝を介してヒトへの感染も成立することから、保健衛生および家畜衛生と密接に関連した顧みられない人獣共通感染症となっている。日本住血吸虫症の排除(elimination)を達成するには、寄生虫のライフサイクルを俯瞰的に把握する必要がある。本研究では、島嶼国フィリピンの多様な寄生虫ライフサイクル全体を対象としたマイクロサテライト(STR)マーカーによる多座位の遺伝子型(MLG)解析解析から、各宿主を嗜好して適応した寄生虫集団の存在を証明してその遺伝的特性(マーカー型)を明らかにする。同時にマーカーと患者での病態との関係も明らかにする。
研究4年目(2022年度)に、調査地をLeyte州Tacloban市、近郊の集落7カ所として、住民及びスイギュウからの糞便と血清の採取を行った。住民(合計101名)からの採材は地域保健所の協力を得て行った。また、スイギュウ(合計24頭)からの採材は農業省の地域事務所の協力を得て行った。Kato-Katz法での虫卵検査の結果、2カ所の集落(Gacao及びSta. Mesa)の住民、それぞれ、8名及び4名(合計12名)が日本住血吸虫症陽性と診断された。また、2カ所の集落(Maliwaliw及びSan Isidro)で飼育されていたスイギュウ、それぞれ、1頭(合計2頭)が日本住血吸虫症陽性と診断された。患者及び患畜あたり1-62個の虫卵を70%エタノールあるいはDNA sheildに保存して日本に持ち帰り、単一寄生虫卵からのDNAサンプルの調整を行った。現在、これらDNAサンプルについて、マイクロサテライト(STR)マーカーによる多座位の遺伝子型(multi-locus genotype: MLG)解析を進めている。また、昨年度開発したメコン住血吸虫のチオレドキシンペルオキシダーゼ-1組換体タンパク質(rSmTPx-1)を抗原に用いるELISA(rSmTPx-1 ELISA)の性能を、Kato-Katz法で住血吸虫症陽性と診断されたカンボジア人患者血清28検体とラオス人に患者血清30検体(合計58検体)及び陰性と診断されたカンボジア人血清30検体とラオス人血清30検体(合計60検体)で評価したところ、感度84.5%及び特異性93.3%の好成績が得られた。一方、rSmTPx-1 ELISAはタイ肝吸虫症の患者血清とも交差反応を示すことから、組換体抗原の改良が必要になることも同時に示唆された。組換体抗原を用いるELISAは、抗原の大量供給と品質管理が容易なことから、大規模調査への応用が期待できる。
3: やや遅れている
日本側チームの渡航はもとよりフィリピン側チームの国内移動も制限さていたため、昨年度の一回のみしか現地での材料採取(現地調査)に着手できていない。また、昨年度調査では、保虫宿主としてスイギュウと同じく重要なイヌからの採材が出来ていない。また、当該調査で採取した材料についても解析を継続中で、結果をまとめることが出来ていない。
前年度に採取した材料について解析結果をまとめる。また、フィリピン側カウンターパートとの事前協議の内容を受けて、延長が承認されている研究5年目(2023年度)にも、日本住血吸虫症”高度”流行地であるLeyte州での材料採取を再度行い、患者、スイギュウ及びイヌを対象に調査研究をおこなう。長崎大学熱帯医学研究所寄生虫学分野濱野真二郎教授に、現地調査に研究協力者として参加していただき、アフリカでの住血吸虫症流行の疫学およびその対策との比較とそれに立脚した情報の提供を依頼する。
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