研究課題
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
本国際共同研究は、共同研究先であるハンガリー・Semmelweis Universityに直接出向き、世界で唯一のヒトの薬剤誘導性アナフィラキシー反応を再現できるブタCARPA(complement activation-related pseudoallergy)モデルを用い、臨床で課題となっているポリエチレングリコール(PEG)修飾タンパク製剤に対するアナフィラキシー反応誘導機構の解明と、その回避策を構築する。
これまでの検討で、PEG修飾タンパク製剤(JIVI)の投与によって、ブタにおいてアナフィラキシー様反応が誘導されないことが確認された。一方で、人為的に抗PEG抗体を誘導したブタにPEG修飾タンパク製剤(JIVI)を投与すると、顕著なアナフィラキシー様反応が誘導された。このことから、抗PEG抗体をもつヒトにPEG修飾タンパク製剤を投与した場合、アナフィラキシー反応が誘導される可能性が強いことを明らかにすることができている。一方、抗がん剤含有PEG修飾リポソームを用い、CARPAモデルでのアナフィラキシー様反応誘導能について検討を行ったところ、既に臨床応用されているドキソルビシン封入PEG修飾リポソーム(Doxil)では強いアナフィラキシー様反応が誘導された。これに対して、別の抗がん剤(オキサリプラチン)が封入されたPEG修飾リポソームではアナフィラキシー様反応が誘導されなかった。このことから、内封した抗がん剤によって免疫反応の誘導が異なることがわかった。次いで、抗PEG抗体保有動物において、アナフィラキシー反応の誘導が見られるか検討した。COVID-19 mRNAワクチンによって誘導された抗PEG抗体とPEG修飾タンパクで誘導されたものでは、PEG修飾製剤投与時に誘導されるアナフィラキシーの程度が異なることが分かった。誘導される抗PEG抗体のPEG自体に対する親和性には差異はみられなかったが、製剤に修飾されたPEGに対する反応性が異なる可能性を示唆する結果が得られている。この反応性の差異がアナフィラキシーの原因の一つであると考えられる補体系の活性化の程度に影響を与え、結果的にアナフィラキシーの程度が変化している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
現状、コロナ禍およびロシアのウクライナ侵攻などの混乱により、ハンガリーに渡航して実験を行う事は困難である。しかしながら、ハンガリーに評価対象のサンプルを送付し、実験を行ってもらう事で、当初計画から若干遅れているが有用な結果を得てきた。また、国内での検討先として自治医科大学・先端医療技術開発センターとの交渉も進んでおり、更に1年間の延長が許可されたことで当初目的を達成できると判断している。
ロシアのウクライナ侵攻の影響を注視しつつ、国内で行う研究はこれまで通り推進し、計画通りの成果が得られるよう努める。ハンガリーでの実験については、同様にウクライナ情勢を注視し、安全を十分に確保した上で現地で行う。渡航不可の場合には、サンプルを送付し、web会議などを通じて打ち合わせを密に行いつつ、研究を進展させる。また、国内委託先の開拓として自治医科大学・先端医療技術開発センターとの交渉も進める。
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