研究課題/領域番号 |
19KK0379
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分30020:光工学および光量子科学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉岡 宏晃 九州大学, システム情報科学研究院, 准教授 (20706882)
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研究期間 (年度) |
2020 – 2024
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
15,210千円 (直接経費: 11,700千円、間接経費: 3,510千円)
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キーワード | 微小光共振器 / レーザー / インクジェット / 光集積回路 / インクジェット技術 / 量子光集積回路 |
研究開始時の研究の概要 |
次世代情報処理技術では、ナノフォトニクスに基づく集積量子光学の利用がその発展の鍵となり、現在、量子エミッター、光子検出器などの異なる材料から成る各素子をチップ(2Dデザイン)に統合する段階にある。しかし、そのスケーリングは優れているが、量子エミッターを駆動する励起光源には大型で高価な波長可変レーザーが必要である。本国際共同研究では、量子エミッターの駆動が可能なマイクロディスクレーザーを量子光集積回路に統合することを目指す。ボトムアップ(インクジェット印刷法)とトップダウン(ナノファブリケーション)を融合した「ハイブリッドナノフォトニクス」という新しいアプローチを展開して本研究を推進する。
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研究実績の概要 |
本研究では、基課題研究における代表者独自のインクジェット印刷法を高度に発展させ、微小励起光源として利用できるマイクロディスクレーザーと量子光集積回路を統合することを研究目的とする。当該年度は、海外でのパッシブ駆動マイクロディスク用の結合導波路チップの設計・作製を経て、国内でそのマイクロディスクの統合を進めた。 まず、前年度進展したアクティブ駆動型(添加色素によりディスク自体が発光)であるマイクロディスクレーザーのSi3N4導波路(n = 2.02)への光結合に関して、三次元FDTD法により垂直結合の経時変化について評価した。その後、得られた知見を元に、海外にて、モードカスケードを評価するための二波長帯(1550 nmと950 nm)に対応した結合導波路チップの開発を行った。パッシブ型駆動(外部レーザー光源から導波路経由でマイクロディスクに結合)を採用する今回のスキームでは、マイクロディスク側の屈折率を高く設定する必要があるため、はじめにマイクロディスクの屈折率チューニングや導波路材料に関する検討を行った。最初の試みとして、前年度まで取り組んだSi3N4導波路をベースにチタニアベースのマイクロディスクで屈折率チューニングを試みたが、ディスクの屈折率をn = 1.95程度までしか引き上げることできないことが明らかになった。そこで次の試みとして、結合導波路チップをエポキシ系樹脂であるSU-8(n = 1.56)に変更して、その開発を海外にて行った。そして、国内にてSU-8導波路上へ屈折率チューニングのめ二種の屈折率の異なるポリマーをブレンドした溶液を用いて印刷実装した。結果として、波長1550 nmに対応した導波路への水平方向の実装および光カップリングを達成した。測定された透過スペクトルではwhispering gallery modes (WGMs)が明確に観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度は、主に海外でのパッシブ型駆動用の二波長帯対応のSU-8結合導波路チップの設計・作製を経て、国内でマイクロディスクの統合を進めた。当該年度前半は、新型コロナウイルスの感染拡大に関する制限がほぼ撤廃されたため、渡航できなかった残り期間分の約5か月間を海外共同研究先でのサンプル作製に充てることができた。その際、同時に三次元FDTD法により前年度のアクティブ駆動型マイクロディスクレーザーのSi3N4導波路への垂直結合に関する経時変化のシミュレーションも効率的に進めた。シミュレーション結果は垂直接合ゆえの特殊な結合状態を有することを明らかにする想定外の発見もあった。そして、シミュレーション結果も参考にしつつ、SU-8結合導波路チップの作製を進め、良好なサンプルを得た。その後、国内に戻り作製したSU-8結合導波路チップ上にパッシブ型駆動型マイクロディスクを実装する作業に移った。そして、波長1550 nmに対応した導波路への水平方向の実装および光カップリングを達成した。これは、単に通常のリソグラフィー法で実装される並列型の水平方向への結合ではなく、リソグラフィー法で作製された矩形の導波路とテーパーエッジのマイクロディスクの通常接合性の無い構造同士をインクジェット技術特有の局所液相プロセスにより自己組織的にインクが導波路に回り込むことにより達成されたという画期的な成果である。一方で、波長950 nmに関してのアプローチではマイクロディスクの実装の最適化が済んでおらず光結合まで至っていない。つまり、二波長帯の対応に至っていない。また、前年度までの渡航延期の影響による研究計画全体としての進捗遅延を当該単年度でカバーするには至らなかった。 以上より、当該単年度における飛躍的な発展があったが、前年度までの渡航延期の影響により事業期間全体としての進捗は、やや遅れていると判断せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の流れは、国内・国外での実験を効率的に織り交ぜて、①「精密配置ための印刷最適化、顕微分光セットアップの高性能化、モードカスケード計算解析」、②「ナノファブリケーションによる埋め込み型結合導波路作製」、③「モードカスケード(伝搬モードの空間分離)の実験解析とマイクロディスクレーザーのチップ統合」の実施である。今後は、③におけるモードカスケードを見据えた二波長帯に対応したパッシブ駆動型のマイクロディスクのSU-8結合導波路への実装を完了させていく。 具体的には、まず未達成の波長950 nmに対応したSU-8結合導波路への実装最適化を行い、当該波長での光結合および透過スペクトル計測によるWGMの観測を主な達成事項とする。このタスクでは、すでに成功している波長1550 nm同様に、水平結合型で低屈折率ポリマーをマイクロディスクと導波路間に印刷してクラッド層を施す。そのクラッド層の厚さの調整、およびマイクロディスクと導波路との接点の大きさの調整が、結合効率を制御することにつながり重要である。実験的な950 nmでの水平結合が達成できた後は、950 nmと1550 nmの導波路が近接配置されたデバイス上にマイクロディスクを実装し、一つのマイクロディスクで950 nmと1550 nmが導波する二波長帯駆動を試みる。これにより、モードカスケードされた状態の伝搬が達成される。透過スペクトルのWGMから実験的に得られるfree spectral range (FSR、モード間隔)とシミュレーションによるモード位置を考察することで伝搬位置の推定などモードカスケードの状態について評価する。
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