研究概要 |
これまでのI型インターフェロン(IFN)シグナルの研究をがん治療の領域において発展させた形で,がんの抗体治療の新しいストラテジーを提案し,臨床応用へ向けた分子基盤を見出すことを目的として研究を推進した.まず細胞表面のタンパク質をビオチン化させる方法を用いて,IFN-βに応答してがん細胞に比較的選択的にその発現レベルが顕著に増強する分子群を同定し,その結果,5つのターゲット分子に着目した.今年度,まず,これら5つの候補分子の細胞外領域に対するモノクローナル抗体の作製を行った.スクリーニングの結果,今年度内に抗体を用いた解析が可能となった2つのターゲットSCI101とSCI102について検討を進めた.皮下に担がんさせたマウスの系において,これらの抗体を用いて,IFN投与後の腫瘍内組織のターゲット分子のタンパク質発現レベルを経時的に検討したところ,昨年度検討した担がんSCIDマウスを用いた系での実験結果とconsistentな結果が得られた. SCI101の方がIFN刺激後16時間目をピークに24時間目にはその二分の一以下にタンパク質の発現レベルが低下するのに対し,SCI102はもう少し早い発現経過を示し,6時間目がピークで,24時間目にはほとんど発現レベルは無刺激のレベルに近くなる結果となった.次に,発現プロファイルを元に,IFN-β投与群と非投与群で治療抗体の抗腫瘍効果を検討した.発現ピークの1時間前に尾静脈より抗体投与を5日間行なった結果,IFN-β投与のみでも非投与群と比べ,腫瘍径の減少がみとめられたが,抗体投与を併用した群の方が,IFN-β投与のみよりもより,腫瘍が縮小する傾向がみとめられた.現在,数を増やして再現性を検討している.また蛍光物質をラベルした治療抗体を用いて,IFN投与による治療抗体の腫瘍局所への集積の検討を行っており,できるだけ早急に論文にまとめることを予定している.
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