研究概要 |
我々は,glycogen synthase kinase 3β (GSK3β)ががん細胞の生存・増殖を維持・推進するという,本酵素に関する従来の理論や知見から予測されていなかった「がん促進機能」を発見した.本研究では,消化器がんを中心にGSK3βの病的作用や本酵素阻害に基づく制がん効果の実証,その分子細胞メカニズムの解明とともに,本酵素の高精度活性検出系を考案・開発する.これによりGSK3β阻害の制がん理論を確立し,そのメカニズムに基づく新しいがん治療法や分子標的薬剤の開発,ならびに本研究から派生する新規がん分子標的の探索に寄与する知的・技術的基盤を創出する.本課題を通じて,GSK3βが媒介する未知のがん化シグナルの解明とがん医療に貢献することを目指す. 1. ヒトがんでのGSK3βおよび関連分子の発現解析 大腸がんと胃がん組織では,それぞれの正常粘膜に比べてGSK3βの発現と第216チロシン残基リン酸化(活性化型)が増強し,第9セリン残基リン酸化(不活性化型)は低下していた.これらの変化はほとんどの症例で観察され,臨床病理学的特性との相関はなかった.大腸がんや膵がん細胞に対するGSK3β阻害のがん抑制効果の分子メカニズムは細胞周期やがん抑制分子経路の制御によるものであることを明らかにした. 2. GSK3βにより制御される遺伝子発現プロファイルのcDNAマイクロアレイ解析 GSK3βの活性阻害により,大腸がん細胞SW480ではJNK (c-Jun NH_2-ternimal kinase)関連分子経路が,また,膵がん細胞PANC-1ではp53とc-Myc関連分子経路が変動することを見出し,現在,その検証を行っている. 3. GSK3β阻害にともなうがん細胞の遊走,浸潤や形態変化の解析 強度の浸潤を特徴とする膵がん細胞のGSK3β活性阻害により,細胞遊走と浸潤が抑制された.これにともなって,上皮-間葉移行や葉状仮足などの浸潤を促進する細胞の形態変化や関連分子(Rac-1など)の局在と機能が抑制された. 4. 難治性消化器がん治療への応用のための基礎実験 治療抵抗性を示す膵がん細胞PANC-1のマウス移植腫瘍に対して,小分子GSK3β阻害剤は増殖抑制効果を示し,抗がん剤(ゲムシタビン)の抗腫瘍効果を増強した.
|