研究課題
特定領域研究
がんの増殖・生存に関わるPI3Kは、がん治療の有力な標的と考えられる。我々は、新規PI3K阻害剤ZSTK474を開発し、世界に先駆けPI3K標的がん治療の有効性を証明した。本研究では、PI3K阻害剤の臨床開発に向け以下の知見を得た。1) PI3K遺伝子変異の解析:クラスIPI3Kの触媒サブユニットp110には4種のアイソフォーム(α、β、δ、γ)があり、各々PIK3CA、-B,-Dおよび-G遺伝子によってコードされている。PIK3CA変異のみ注目されているが、他の3種の変異は報告がない。そこで39種類のがん細胞株(JFCR39)でPIK3CB、-D,-G遺伝子の全塩基配列を決定し、ミスセンス変異を初めて同定した(PIK3CBに5箇所、PIK3CDに3箇所、PIK3CGに8箇所)。これらが機能獲得型変異かどうかは興味深い。2) PI3K遺伝子変異を持つがんに対する効果:JFCR39におけるPI3K変異プロフィルとZSTK474に対する感受性に相関があるかどうかを細胞レベルならびに動物レベル(ゼノグラフト)で調べたが、有意な相関は認められなかった。よって、PI3K阻害剤の抗がん効果は、PI3K変異状態には無関係と考えられた。3) PI3Kスーパーファミリー(クラスI、II、III、PI4KおよびPI3K関連キナーゼ)への効果:ZSTK474はクラスIPI3Kへの特異性が高いことが判明した。4) 脳腫瘍への効果:脳腫瘍同所移植モデルにおいてZSTK474は経口投与で有効性を示したことから、脳腫瘍治療への応用が期待された。5) 他の薬剤との併用効果:ヌードマウス移植ヒトゼノグラフトに対しZSTK474は、mTOR阻害剤ラバマイシンとの併用で効果増強を示した。PI3K経路を2箇所で阻害する治療は有望と考えられた。
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