研究概要 |
この研究では,認知・行動に障害をもたらす非局所性損傷の患者疾患を対象にして,FDG-PET,fMRI,voxel-based morhphometry(VBM)を用いた病巣研究のパラダイムで機能障害,特に錯視や脱抑制,解離現象,性格変化などのいわゆる陽性症状の神経基盤を求める研究を続けてきた.今年度の研究では.これまでのパーキンソン病や解離性健忘の研究を進めるととともに,特にプラダ・ウィリー症候群(PWS)対象として,これらにおける行動異常の神経基盤をFDG-PETあるいはVBMを用いて検討した.PWSでは,常同行動,強迫性行動,過食を始め様々な脱抑制行動が極めて特徴的・定型的にみられる.PWSの行動に関する全国調査を行い,本能的行動パターンの抑制障害と考えられる異常食行動(過食),常同行動,収集行動を高頻度に認め,前頭葉眼窩皮質損傷時の行動障害に類似することを確認した.本年度は,PWS成人と,年・齢・性別を一致させた健常成人を対象に,3D-MRIとVBMを用いて脳の局所灰白質量を比較し,PWSでは前頭葉眼窩皮質,尾状核,海馬傍回,一次運動野,運動連合野,小脳の灰白質体積が小さく,全脳体積で補正すると右前頭葉眼窩皮質と右小脳で有意に灰白質量が小さいことが示された.このことからPWSでは前頭葉眼窩皮質の灰白質が特異的に小さく,前頭葉眼窩皮質の形成・発育の違いがPWSの行動障害の背景となっている可能性が示唆された.
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