研究課題
特定領域研究
エネルギー源となる栄養素を飢餓時に備えて生体内に多く貯蔵するには、食物摂取量を増やすか、エネルギーの消費を抑制するかの2つの方法がある。グレリンは視床下部の摂食調節中枢に作用して食欲を亢進させ摂食量を増やすことが知られていたが、エネルギー消費への作用はあまりよくわかっていなかった。本年度、われわれはグレリンが褐色脂肪組織の熱産生を抑制することによって、エネルギー消費を抑えることを見いだした。マウスにグレリンを投与すると体温が下がる。投与後数分して体温は下がり始め、投与2時間でもとの体温よりも2度以上の低下を認めた。このグレリンによる体温低下のメカニズムを探るために、まずわれわれは生体内の熱産生の主要組織である褐色脂肪組織(以下、BAT : brown adipose tissue)について調べた。BATに入力する交感神経の電気活動をモニターすると、グレリン投与によってBAT入力神経は抑制される。このことはグレリンが交感神経抑制作用を持つことからも裏付けられる。また、血中カテコールアミン濃度を測定すると、グレリン欠損マウスでは36時間の絶食によってアドレナリンとノルアドレナリン濃度の上昇が認められた。野生型マウスでは上昇は見られない。このことはグレリンがないと、交感神経の抑制機能が失われ、生体内のエネルギー消費を抑制すべき絶食時でも、交感神経活動が活発になって、エネルギーの消費が持続することを示している。以上のことから、胃から分泌されたグレリンが、迷走神経を介して延髄孤束核に到達し、そこから視床下部摂食中枢に神経連絡するとともに、BATに入力する交感神経の抑制作用によって体温を低下させると考えられた。このようにグレリンは生体内にエネルギーを蓄えるために重要なホルモンである。
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