研究概要 |
自閉性障害、アスペルガー障害などの広汎性発達障害の主要な症状に対人的相互性の障害があるが、その基礎となるのは他者の感情を推定する表情認知の障害であると報告されている。そこで、自閉性障害、アスペルガー障害などの成人広汎性発達障害者について、健常者群と同様の表情の顔をみたときに賦活される脳部位についてfMRIを用いて解析を行って検討した。被験者は12名の成人広汎性発達障害者(平均29.8才)と12名の健常者(平均27.4才)とし、1.5TのMRI装置に仰臥位となり、ヘッドコイルに装着したミラーを通してスクリーンに投影されるHappy(H),Sad(S),Angry(A),Neutral(N)の4種の表情の顔の視覚刺激(ATR製)を見せた。得られた機能画像はSPM5を用いて解析し、H,S,A,Nの4種の表情間の脳の賦活の違いを3つの方法を用いて比較した。すなわち(1)健常群とPDD群においてHvs.N,Svs.N,A vs.Nのように、Happy,Sad,AngryからNeutralを引いた各条件で個人データの解析を行い、引き続き各条件で健常群とPDD群の群間比較を行った。(2)PDD群各個人で(H)vs(N),(S)vs(N),(A)vs(N)の条件間比較による統計画像(contrast map)を求め、次いで、条件間比較で得られたcontrast mapの各ボクセルの値と各個人のAQ-Jスコアの値との相関を求めた。さらに、(3)健常者群の賦活部位から関心領域(Region of Interest:ROI)を設定し、PDD群と比較した。(1),(2)(3)ともに、PDD群では紡錘状回(Ba逹9)、ミラーニューロン領域(Ba44)、補足運動野(Ba6)、帯状回(Ba24)において、(H),(S)の条件下でPDD群が有意な低下を示していた。「悲しみ」や「喜び」の表情でControl群とPDD群に賦活の差があることは、PDD群は相手の情動の状態を読み取る機能に障害があることを示唆し、これらの部位の機能障害あるいは、発達の遅延があることが推定された。
|