研究概要 |
眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早期発症型脊髄小脳失調症(EAOH/AOA1)の原因遺伝子アプラタキシン(APTX)を同定し,その遺伝子産物APTXについて解析してきた.本研究期間では,疾患関連ミスセンス変異型APTX,本邦で最多であるフレームシフト変異型APTXの病態機序の解明を目的とした.野生型,および疾患関連ミスセンス変異型,疾患非関連ミスセンス変異型APTXの組換えタンパク質を作成し.3'末端にリン酸基またはPG基の付加した20merのオリゴヌクレオチドを基質として用いて,3'phosphatase活性や3'PG removal活性を検討した.APTXと蛍光蛋白との融合蛋白を用い,細胞内局在を共焦点レーザー顕微鏡で観察した.さらに,APTXの蛋白-蛋白結合を明らかとするため,N末V5 tag付き全長型APTXと,N末GFP tag付き全長型・断片型・ミスセンス変異型APTXを用い,共免疫沈降法にて解析した.野生型およびAPTX欠損マウス由来の小脳顆粒細胞を用いてコメットアッセイを行い,DNA切断損傷の蓄積量を検討した.APTXは損傷3'断片に関しては3'phosphatase活性や3'PG removal活性を示し,かっ損傷5'断片に関しては強い切断部5'-末断端のadenosine monophosphate (AMP)残基の除去活性を示した.疾患関連ミスセンス変異型APTXであるP206LおよびV263Gは,ともに3'phosphatase活性,3'PG removal活性,5'-AMP removal活性を示さなかった.一方,疾患非関連APTXミスセンス変異体H260Aは,5'-AMP removal活性は示さないが,3'phosphatase活性や3'PG removal活性を示した.また,APTXは二量体形成能をもち,これがAPTXの核小体のGranular Center (GC)への局在に重要であることを示した.一方,疾患関連ミスセンス変異型APTXはこ量体形成能を失い,GCへの局在能を失った.一方,疾患非関連APTXミスセンス変異体H260Aは核小体の二量体形成能を保持しGCへ局在した.APTXの生理活性として,3',5'損傷断端のremoval活性のうち何れが重要であるかを検討するために,APTX欠損神経細胞にH260A,野生型APTXを導入し,その修復機能を検討した.APTX欠損神経細胞では,ブレオマイシン負荷によりDNA単鎖切断損傷が有意に蓄積するが,その損傷は野生型APTXでもH260A変異型APTXでも同様に修復された.一方,本邦で最も多いフレームシフト変異型689 insTに関しては,ミスセンス依存性mRNA分解機構(NMD)により,mRNAの量が減少しておこっていることを見いだした.
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