研究概要 |
本研究は1個の分子を金属電極間に架橋させた「ナノリンク分子」を形成し,その高バイアス/高電流下における不安定化現象を実験的に考究するとともに破断電圧/電流のデータベースを構築することを目的としている.平成21年度はオクタンジチオール(ODT)単分子を金電極に架橋した接合を対象として,コンダクタンスおよび破断電圧の測定を行った.主な成果は以下のとおりである. 1. 室温で金電極にODT単分子を架橋し,そのコンダクタンス測定を行った.得られたコンダクタンスヒストグラムは1.5×10^<-5>G_0付近に小さなピークを示し,これが単分子コンダクタンスを表していると考えられる.Au/ODT/Au接合のコンダクタンスについては従来から高低様々な値が報告されているが,今回得られたピーク値はGonzalezらによる報告値1.2×10^<-5>G_0にほぼ一致している. 2. 接合を1.5×10^<-5>G_0のコンダクタンス状態に保持したままバイアス電圧をスイープし,接点が不安定化する閾値電圧を測定した.BDTの場合と同様に不安定化がおきると接合は閉じた状態になってしまう.この閾値電圧の平均値は2.5±0.4Vであり,Au/BDT/Au接合の破断電圧よりも高い.これはBDTよりもODTの方が分子長が長く,電極間隙が大きいために,不安定化がより高い電圧で起きると考えられる.このことは不安定化がある電界で起きることも示唆している.閾値電圧から推定される不安定化の電界はアルカンジチオールSAM膜の絶縁破壊電界と同程度であり,SAM膜の絶縁破壊と同様の機構によってAu/ODT/Au接合が不安定化していることが推定される.
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