研究概要 |
本研究では,そこで,磁場効果を反応環境のプローブに用い,「イオン液体はどのような構造なのか」,また「ドメインや部分構造はあるのか」を解明する。その結果を踏まえて,イオン液体の特徴を生かした,イオン液体中でしかできない,磁場による反応制御を探索した。 具体的には,(1)イオン液体中でのベンゾフェノン(BP)によるチオフェノール(PhSH)およびフェノール(PhOH)からの水素引き抜き反応に対する磁場効果:観測された大きな磁場効果をスピンダイナミクス・反応ダイナミクスの両方を完全に取り入れて統計リュービル方程式で解析した。イオン液体中には,半径は2nm程度のドメイン(ケージ)構造があることが示唆された。特筆すべき点はその内部のミクロ粘性が,マクロ粘性に比べて遥かに小さく1~2cPである。さらに,ケージの寿命は少なくとも160nsより長くないことがわかった。(2)チオベンゾフェノンのイオン液体中での特異な反応性:ベンゾフェノンの硫黄類似体であるチオベンゾフェノン(TBP)について,イオン液体中で反応性を検討した。TBTは硫黄によるスピン軌道相互作用が大きいので,自己消光がはやく,通常の分子性溶媒中ではその励起三重項の寿命は数十nsしかない。しかし,イオン液体中では,数百nsからサブマイクロ秒に延びることを見いだした。この長寿命化は単純にイオン液体の粘性では説明できず,イオン液体のケージ効果によるものと解釈できる。このように,イオン液体中での特異な反応は,拡散と競争するような高速な反応において見いだされる可能性が高いと予想される。
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