研究概要 |
将来,人工細胞の構築など,合成生物学的な研究を進めるために,再構成された無細胞タンパク質合成系は,中心的な役割を果たすと期待される.タンパク質合成系はバクテリアと真核細胞とでは著しく異なるので,真核細胞型の再構成タンパク質合成系の実現が望まれる.コムギ胚芽由来無細胞タンパク質合成系の成分は極めて頑丈であり再構成に適していると考えられるが,その元になる抽出液は非常に高価であり,このことが再構成系の実現を妨げている.前年度までに,安価に入手できるコムギ胚芽から翻訳伸長因子等を精製し,それらと高価な胚芽抽出液からのリボソームとを用いてポリフェニルアラニン合成が可能であることを示した.今年度は,安価な胚芽からのリボソームと高価なリボソームとを比較した.安価な胚芽からのリボソームは,胚乳由来因子によって化学的に損傷を受けている可能性が考えられたが,高価なリボソームよりもわずかに活性が低いだけで,損傷は受けておらず,また,タンパク質合成の正確さにおいても高価なものと同程度であることが明らかになった.これにより,再構成に向けての最大の障害が回避できることがわかった.研究を進めるうちに,コムギリボソームは,他の生物由来のリボソームと比べて,サブユニットに解離しにくいことが判明した.そこで,リボソームをサブユニットに解離させる因子eIF6を大腸菌で発現させ,可溶性の試料として大量に得ることに成功した.これにより,他の翻訳因子の活性を測定するための基礎が確立した.
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