研究概要 |
触媒的不斉合成において,触媒の不斉空間(立体配置)と生成物の絶対配置の相関関係を明らかにすることは,反応機構とりわけエナンチオ選択性の発現機構を解明する上での必須事項である。また,その相関関係に基づいて,未知の反応における生成物の絶対配置を予測することも可能である。我々は先にリン原子上に不斉中心をもつ配位子(P-キラルホスフィン配位子)を開発し,それらの不斉触媒能を検討するとともに,ロジウム錯体触媒不斉水素化などの代表的な不斉触媒反応の機構の解明を目ざして研究を行ってきた。我々が開発した不斉触媒の構造は極めて単純であるが,ほぼ100%の極めて高いエナンチオ選択性を発現することが明らかとなった。この高度のエナンチオ選択性は,選択性にかかわる複数の因子が協奏的に機能することによって発現したと考えられる(東京工業大学Ilya Gridnev准教授との共同研究)。 キラルホスフィン配位子((R,R)-QuinoxP*)を用いて得られたロジウム錯体によるデヒドロアミノ酸の不斉水素化の結果を(S)-BINAPを用いた場合の結果と比較したところ,両者ともにR-体の還元生成物を極めて高いエナンチオ選択性で与えた。これに対して,アリールボロン酸のα,β-不飽和ケトンへの1,4-付加反応では,互いに逆の絶対配置をもつ生成物を極めて高い不斉選択性で与えた。同様な生成物の立体配置の逆転は,β-ケトエステルのルテニウム錯体触媒による不斉水素化においても見られた。 これらの矛盾しているように見える実験事実は,エナンチオ選択性を発現する段階でのリン原子上の置換基の影響を考慮することによって合理的に説明できる。すなわち,QuinoxP*ではt-ブチル基はメチル基よりも常にかさ高い置換基として作用するのに対して,BINAPにおける互いにジアステレオトピックな二つのフェニル基は,反応の種類によってその立体的相互作用の大きさが互いに異なるためである。
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