研究概要 |
本研究では,有機反応機構やQM/MM法を用いた金属触媒反応機構の解明で培った経験を活かし,プロスタグランジン類(プロスタグランジンD_2/E_2)の合成酵素反応機構における酵素の効果について,量子化学計算,分子ドッキング,分子動力学を用いて検討する。本年度の成果は以下の通りである. (1)プロスタサイクリンの生合成反応機構:シトクロムP450(プロスタサイクリン合成酵素、PGIS)によるプロスタサイクリンの生合成のモデル反応機構をUB3LYP密度汎関数法により検討した.三価の鉄を経由するよりも,酸素-酸素のホモリティック開裂によりいったん四価になったのち、炭素ラジカルから鉄への-電子移動により三価にもどる経路のほうがエネルギー的に安定であることを示した.さらに、酵素のヘム周りのアミノ酸残基モデルを考慮しない計算モデルでは、高スピン状態が低スピン状態に比べて安定だったのに対し、アミノ酸残基モデルを考慮すれば低スピン状態が中間スピンや高スピン状態にくらべて、エネルギー的に安定でる結果を得た。すなわち、スピン状態を考えるにはとくに、基質がヘムと結合する触媒ポケットを小さくする役目を果たすTrp残基の影響が大きいことを量子化学的に示した。さらに、AMBER力場を用いた分子動力学計算を、水分子を含めて行い、触媒ポケットにある水分子は数えられるほどしかないことを示し、疎水性であることを予測させる結果を得た。 (2)関連する反応機構研究として、エンドペルオキシドの鉄-ポルフィリン錯体反応におけるアキシアル効果を理論的に解明したこと、リチウムイノラートのアルキルチオケトンとの反応で、生成するアルケンの幾何選択性の高さを量子化学的に説明することができた。
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