研究概要 |
本研究では,余剰電子を含む分子集団(気相分子クラスター)に特有な強い振電相互作用を伴う構造変化に着目し,ナノスケール分子集合系の電子状態・幾何構造の変移,すなわち「構造転移ダイナミクス」の特徴を明らかにすることを目的として,以下の成果を得た. 1. 電子の局在⇔非局在のモデル系である(CO_2)_t^-の2つの電子構造異性体CO_2^-・(CO_2)_<n-1>, C_2O_4^-・(CO_2)_<n-2>の存在比に対する水和の影響を,[(CO_2)_nH_2O]^-を対象とした赤外光解離分光とab initio計算によって調べた.その結果,非対称な水和によってCO_2^-・(CO_2)_<n-1>を選択的に安定化させる効果と,DIHB(double ionic H-bond)構造を形成することでC_2O_4^-・(CO_2)_<n-2>を安定化させる二つ効果が拮抗することで異性体存在比が決定され,両者の効果が逆転するクリディカルサイズがn=4であることを明らかにした. 2. Ar溶媒和した水和電子クラスター(H_2O)_n^-Ar_mとニトロメンタン,アセトニトリルなどの極性分子との会合反応によって,分子M,水素結合ネットワーク(H_2O)_n(n=2,6,7)および余剰電子で構成された新規な双極子束縛型負イオンM・(H_2O)_n{e^-}が生成することを見出した.更に,赤外振動励起などの光刺激によって,M・(H_2O)_n{e^-}を水和原子価負イオンM^-(H_2O)_mへ変換できることを示した.この現象は凝縮相の溶媒和電子による1電子還元反応の気相モデルと見なせることから,電子移動による過渡的な準安定イオン種の生成と溶媒和による安定化を直接に実時間で観測できる可能性が得られた.
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