研究概要 |
本研究では,第4世代のクォーク・レプトンの存在を仮定し,宇宙初期のバリオン-反バリオン非対称性を生ずる新しい機構の可能性を検討する.特に,クォーク,荷電レプトン,ニュートリノそれぞれのセクターにおける新たなCP位相によって,どれだけのバリオン-反バリオン非対称性を生成することができるかを,素粒子論的宇宙論の手法で定量的に評価することを試みる. 平成20年度は,重い第4世代による強い1次電弱相転移の可能性を検討した.重い第4世代クォーク・レプトンが存在し,その真空凝縮(あるいは質量)が,SU(2)×U(1)ゲージ対称性の自発的破れのオーダーパラメータの役割を果たすと考えられる状況では,真空の量子的揺らぎを記述する低エネルギー有効理論には,第4世代のクォークやレプトンの真空凝縮のそれぞれに対応するように複数のヒッグススカラー場の導入が必要になると考えられる.このとき,高温状態でのSU(2)×U(1)ゲージ対称性の回復にともなう相転移は,Coleman-Weinberg機構によって,1次相転移になる可能性がある.この"第4世代による1次電弱相転移の可能性"を,有限温度場の量子論におけるone-loop近似の有効ポテンシャルを用いて半定量的に解析した.ヒッグススカラー場の複合粒子条件を課さない場合には,260GeVを超える質量をもつ第4世代クォークが存在しても,Electroweak Baryogenesisに必要な程度の強い1次相転移が起こりうる.しかし,複合粒子条件を課す場合には,1次相転移は弱くなる傾向にあることが明らかになった。 電弱相転移におけるバリオン数非対称性の生成率を定量的に評価する方法は,軽いクォーク・レプトンを仮定したものがこれまで用いられてきた。平成21年度は,この方法が,重い第4世代クォーク・レプトンに適用可能か,検討を行った。
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