研究概要 |
申請者は, ラン科の植物中に含まれる生理活性1, 1'-ビフェナンスレン型天然物Blestriarene C(1)が, 自然光や蛍光灯の照射下に極めて容易にラセミ化することを見出している。本研究の目的は, 本ラセミ化反応の反応機構を解明するとともに, この現象を新しいフォトクロミズム系へ展開するために, 脱ラセミ化について検討することである。 1. 1とその類縁体のラセミ化には, 光照射された1が酸素により酸化されてカチオンラジカルを生じる過程があり, 酸化還元電位の低いものがラセミ化しやすいと考えられるが, ラセミ化活性と酸化還元電位との相関性は必ずしも高くなかった。この原因が, 試料中に含まれる微量の不純物がラセミ化を抑制するためであることを突き止めた。このことと溶媒の工夫により, 単純なビフェナンスロール類でも十分なラセミ化活性が得られることがわかった。また, 試料の酸化により生じると考えられる不純物にはキラリティーが存在することから, その性質を利用してラセミ体の1(またはその類縁体)を脱ラセミ化できる可能性がある。 2. 1の7, 7'-ジエーテル体2をキラル化合物との包接錯体を形成させて脱ラセミ化させる方法を検討し, シクロヘキサン-1, 2-ジアミンが, NMRでも判別可能なジアステレオメリックな包接錯体を形成することを見出した。円偏光照射による脱ラセミ化は, 現有の円二色性分散計の精度が足りないことがわかったので, 今後, より精密な測定を行っていく予定である。 3. 脱ラセミ化への展開を期待して, アトロプ異性体の光学分割とエピ化の容易なα-アミノニトリルの動的速度分割についても検討した。
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