研究概要 |
我々は以前, テトラキス(2-メチル-5-メチルチオチエン3-イル)エテン(1)の合成と, 溶液中のフォト(PC)およびエレクトロクロミズム(EC)を検討し, 紫外光を短時間照射した時に1とtrans-2との間のPCを確認した. しかし, 1に紫外光を長時間照射した時にはtrans-2の転位体trans-3が副生し, これに可視光を照射してもtrans-2に戻ることはなかった. そこで, 本研究では, 1, trans-2, trans-3の制御, すなわち, 三つのフォトンモードの制御を目指し, 単結晶状態, 粉末状態, KBrペレット中, アモルファス状態, ポリスチレンフィルム中などの凝縮系における1のPCの検討を行った. まず, 基質1の単結晶に紫外光を1時間照射したが, tmns-2は生成しなかった. これは, 1の単結晶中において, 1のvicinal位の関係にあるチオフェン環二組が共に光反応を示さないとされるparallel配置であるためと考えられる. 一方, 1の粉末(1, pd)に紫外光を30分間照射すると, 赤橙色に呈し, この拡散反射はλ_<dr>=494nmに観測された. さらに, この着色した粉末に可視光を30分間照射すると, 494nmの反射は減衰したが, さらなる長時間照射でも(1, pd)に戻ることはなかった. このことは, 光照射でtrans-2, trans-3を生成したことを意味する. また, 他の凝縮系でも同様に, 紫外光を照射すると, trans-3が生成した. 以上の結果から, 1の凝縮系では三つのフォトンモードの制御が困難であることが分かった. なお, trans-2からtrans-3への転位は, trans-2のC_3-C_2およびC_2'-S_1'結合が開裂し, C_3-C_2'およびC_2-S_1'結合が生成する1, 2-dyotroic転位であると考えられる.
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