研究概要 |
細菌走化性シグナル伝達系は,システム全体の働きを分子レベルで理解するうえで有力なモデル系である.また,走化性受容体は,複数の化学物質のほか,温度やpHも認識する多機能センサーであり,HisキナーゼCheA,アダプターCheWと巨大クラスターを形成している.後者の性質はシグナル増幅や適応に重要である.本研究ではこれらを発展させつつ,膜貫通型受容体とリガンド,受容体どうしや他の蛋白質との複合体に焦点を当て,構造-機能連関を解析した.本年度のおもな成果は,以下のとおりである. 1. 受容体-リガンド複合体の構造解析:すでに本研究で決定したセリン受容体のリガンド結合ドメインとセリンの共結晶構造に基づき,野生型・変異型受容体のセリン・アスパラギン酸の結合能を解析し,リガンド識別機構のモデルを構築した.また,クエン酸受容体のリガンド結合ドメインについても三次元構造を決定した. 2. 受容体-キナーゼクラスターの構造と機能:In vivo S-S架橋解析により,1種の受容体に刺激が入力されると,別の種の受容体にも構造変化が伝わることが示唆された.さらに化学架橋剤を用いた解析により,クラスター内での受容体の配置とリガンド結合による変化について,より詳細なモデルを構築した. 3. コレラ菌アミノ酸走性受容体の同定と解析:コレラ菌は45種の受容体様蛋白質をもつが,それらのうちアミノ酸走性に関わるものを2種同定した.この2種のリガンド結合ドメインは互いに相同であるが,大腸菌のものとは全く似ていない.それらのリガンド結合ドメインを精製して,アミノ酸が直接結合することを示した.
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