研究概要 |
巨大粒子ヒトVaultは、3種類のタンパク質と3種類のnon-coding RNA(vRNA-1,vRNA-2,vRNA-3)とから構成されているリボヌクレオプロテインである。電子顕微鏡下での観察によると粒子全体では樽状構造をとることが知られている。しかし、その詳細な分子構造と機能は明らかにされていないが、最近、本特定領域研究の領域代表者(月原冨武)のグループが結晶構造を解明した(Science323,384-388(2009))。一方、機能であるが、近年の研究で、Vaultは細胞内の無毒化機構の中で重要な役割をしていることを示唆するデータが報告されている。我々は、この無毒化排除作用にvRNAが関わっていると考えており、本課題では、癌化学療法剤耐性をもっ種々のがん細胞株とvRNA過剰発現との関係、RNAi法を利用した機能解析などを中心に研究を行った。今までの研究より、vRNAを含むvault構成成分は、がん細胞、特に癌化学療法剤に耐性のあるがん細において過剰に発現していることが示されてきた。我々は、vault構成成分の過剰発現が癌化学療法剤耐性に関わっていることを分子レベルで明らかにするために、5種類のがん細胞株(MG63、U119MG、U937、U20S、U20S/mot-2)についてvRNA発現レベルの解析を行い、特にU20SとU20S/mot-2がvRNA-1の高度な発現レベルを示した。これらのU20SとU20S/mot-2は他のがん細胞株に比べ、癌化学療法剤mitoxantroneに対しより高い薬剤耐性を示した。 次に、vRNA-1のがん細胞株における過剰発現の機能的重要性を調べるために、RNAi法を用いて、vRNA-1の細胞内での発現レベルをknock-downする実験を試み、U20S/mot-2がん細胞株におけるvRNA-1の発現量が30%抑えられた時にmitoxantroneの細胞内の濃度は増大した。さらに、相補的な実験法として、がん細胞株MG63のようにmitoxantrone感受性の高いがん細胞株に対する救済実験(rescue experiment)を試みた。MG63がん細胞内でvRNA-1を約1.5倍過剰に発現させた時に、mitoxantrone耐性が、コントロール群に比べ増大した。以上の実験より、vRNA-1は、癌化学療法剤に対するがん細胞の耐性に関わる重要な役割をしていることが明らかになった。
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