研究概要 |
<目的>胚発生期の細胞運命は分化関連遺伝子の発現バランスよって決定される.ポリコーム群タンパク質(Ringlb, Mel18, Cbx2, Phc2など)は多くの分化関連遺伝子を可逆的に抑制することができる.つまり,ポリコーム群は可逆的抑制とその解除を実施することで細胞運命決定に貢献している.しかし,その分子基盤はまだ解明されていない,抑制の可逆性を考慮すると,私は生体内ではポリコーム群と遺伝子発現装置とのクロストークが介在していると考える,既に我々はポリコーム群の抑制機能にspliceosome因子Sf3b1が必要であることを示している(Isono et al., 2005).これはポリコーム群とspliceosomeの機能的リンクの介在を示唆するものである.その証明の一環として,本研究では,spliceosomeとポリコーム群とが生体内で適正に相互作用しない状況を作出することを試みた.その戦略は,ポリコーム群-spliceosome結合に重要なアミノ酸部位の同定とその点変異型マウスの作製解析である. <成果>(1)ポリコーム群Cbx2とスプライシング因子PSFおよびhnRNPA1とのRNA分子を介した新規の結合を同定した.(2)これら結合にはCbx2内のDNA結合モチーフAT-hookが必要であることを示した.また,AT-hookのRNA結合性も確認した.(3)Cbx2 AT-hook点変異型のノックインマウスを作製し,そのホモ個体はCbx2ノックアウト変異と同様の背骨パターン異常を示した.これは少なくともAT-hookはCbx2機能に重要であることを示している. 現在まで,本研究はCbx2機能破綻とspliceosomeとの関連性を示していないが,ポリコーム群-spliceosome相互作用の事実は,細胞運命決定のエピジェネティクスに新しい見解を与えるものである.
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