研究概要 |
「研究目的」出芽酵母ヒストンH3の56番目のリジン(H3 K56)はヒストンデアセチラーゼHst3,Hst4によって脱アセチル化される。Hst3,Hst4は細胞老化の制御を行なうSir2ファミリーの一つであるが、このSir2以外のヒストンデアセチラーゼも細胞老化に関与しているかどうかはよくわかっていない。本研究ではHst3, Hst4がヒストンH3 K56のアセチル化を介してSir2同様に細胞老化制御に関与しているかどうか研究を行なった。 「研究成果」hst3 hst4二重欠損株では染色体中にH3-K56のアセチル化が高度に残存し、sir2欠損株同様に細胞の分裂回数が極端に減少する。hst3 hst4二重欠損株は細胞分裂の度にloss of heterozosity(LOH)を高頻度で起こす。野性株で見られるLOHでは染色体腕が欠損しても染色体の再生がみられるのに対して、hst3 hst4二重欠損株でのLOH内でも染色体腕が再生せず欠損したままになる頻度が高かった。さらにはhst3 hst4二重欠損株はヒトの早老症であるウェルナー症候群WRN遺伝子の出芽酵母ホモログであるsgs1訂欠損とは合成致死になった。 「研究の意義および重要性」今回の研究から染色体クロマチン中の一種類のヒストンのアセチル化の制御異常によって細胞の寿命を短縮してしまう効果があることを明らかにした。hst3 hst4二重欠損株ではゲノムの不安定化、特に染色体腕の欠損が高頻度で起こることによって、細胞増殖に必須な遺伝子を消失することが細胞の短命の原因ではないかと考えられる。さらにhst3 hst4 sgs1三重遺伝子欠損株が致死性を示すことは、DNAの二重鎖切断あるいは複製フォークの進行阻害によって生じるDNA障害の際に使われるDNAの相同組換え修復機構が過剰なヒストンH3-K56のアセチル化によって阻害されることを示している。
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