研究概要 |
不斉自己触媒反応は,最初の極めて低い鏡像体過剰率が,反応中に著しく増幅するものである。したがって,なんらかの要因でキラリティーの偏りが生じると,たとえそれが検出限界であっても不斉自己触媒反応により検出限界以上に増幅させることが可能である。本研究では,不斉の発生要因のひとつとしてアキラルな有機化合物が形成するキラル結晶に着目した。ベンジルはアキラルな有機化合物であるがキラル結晶を形成することが知られている。そこでベンジルのキラル結晶の固体CDスペクトルを測定することにより,プラス体とマイナス体とを識別した。次にこれらのベンジルのキラル結晶の粉末存在下で,ピリミジンカルバルデヒドとジイソプロピル亜鉛とを作用させたところ,ベンジル結晶のキラリティーと相関した絶対配置を持つピリミジルアルカノールが高い鏡像体過剰率で生成することを明らかにした。本結果は,キラルなベンジル結晶により最初に生成するピリミジルアルカノール亜鉛アルコキシドにわずかな不斉が誘起され,それ以後不斉自己触媒反応の機構により鏡像体過剰率が顕著に向上したものと考えられる。アキラルな有機化合物には,キラル結晶を形成するものが複数知られており,本結果は,不斉の起源として,これらのアキラル有機化合物からなるキラル結晶が有効に作用し得ることを如実に示したものである。以上のように本研究は,有機化合物の不斉の起源の研究における重要な意義を持つものと考えられる。
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