研究概要 |
研究期間中に遂行した研究の内容は,相互に関連する3つの内容に集約され,各研究成果は以下の通りである。 第1番目の研究は,横浜市の全国消費実態調査・個票データを用いて家計消費15品目の価格弾力性を計測し,それをいくつかの環境政策のシナリオと組み合わせることで,環境政策によるCO_2削減効果を予測した研究である。横浜市に関するシミュレーション結果を,全国データを用いた結果と比較することで,マイクロレベル,地域レベルでの分析の必要性,あるいは集計データや全国データを用いることによる問題点が具体的に示された。 第2番目の研究は,消費者の環境行動に関するマイクロレベルの研究として位置づけられる。すなわち,具体的な代表的食事のメニューによって誘発されるCO_2排出量の算定を行うことにより,消費者の食生活から誘発されるCO_2 排出量について詳しく考察した。食生活において消費者の消費選択は食材について行われるのではなく,それを利用して作られる食事のメニューに対して行われると考えられることから,食生活による環境影響を考察する場合,個々の食材のCO_2誘発量の値を実際に供されるメニューに組み合せて考える必要がある。またそのようなメニュー単位の情報提供によって消費者は,実際の食生活とそれによるCO_2誘発排出量との関係を把握しやすくなり,より環境配慮的な消費行動を心がけやすくなる。このような背景に基づいて,食材の組み合わせとしてのメニュー単位のLC-CO_2を計算し,消費者のメニュー選択行動が食生活からの環境負荷に与える影響を具体的に考察した。分析の結果,メニューごとに誘発されるCO_2 排出量には大きなばらつきがみられた。中食食材によるCO_2 誘発排出量はそうでない食材による誘発排出量より高いものの,中食を適切に利用することで,メニュー全体からのLC-CO_2は削減されることが示された。このことから,個々の食材のCFP にのみ着目するのではなく,それらが組み合わされて機能するときの環境影響について目を向けることが重要である。メニュー単位など消費者に使い勝手の良いCO_2排出量の情報が提供されれば,グリーンコンシューマーの啓発を促進することが期待されると考えられた。 第3 番目の研究では,サービスに対するLC-CO_2の算定事例として,外食産業におけるサービスのLC-CO_2算定を試みた。
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またこのことには,内食・中食の分析を行った第2番目の研究を補足する目的もある。しかし,サービスのLC-CO_2 の算定には,多くの難しい問題が存在する。たとえば外食サービスを取り上げた場合,消費者が需要する特定のメニューから誘発されるCO_2排出量は,単にそのメニューを構成する食材によるものだけでなく,レストランのあらゆる運営に関わるすべての中間財が,当該メニューのLC-CO_2に算定される必要がある。分析の結果,外食メニュー1食あたりのCO_2誘発排出量のうち,食材誘発分は比較的少ないことがわかった。そして,サービスのCO_2見える化により消費者にこのような事実を知らせ,たとえば余分な割り箸等を使わないなど,サービス本体以外の部分でのCO_2排出削減努力を促す工夫が重要であると考えられた。サービスに関してもそれを利用するときのCO_2 排出量を消費者に対して見える化することが,グリーンコンシューマーの啓発に資すると考えられた。 ところで,そもそも食生活に関しては,食べるのをがまんして食費総額を減らし,その結果食費によるCO_2誘発排出量を減らそうとする事は,ほとんど意味をなさないので,このような工夫には限界がある。したがって食材そのものの生産に伴うCO_2誘発排出量削減策が必要である。そこで本研究では,食品原材料のCO_2誘発削減策としての農業生産技術変化と農産物のCO_2誘発との関係を分析した。「地球温暖化防止に貢献する農地土壌の役割について」(2008年3月農林水産省)によれば,農地土壌の適切な管理により炭素貯留機能を活用すれば,温室効果ガスの吸収効果が見込まれるとされている。そこで,有機農法の活用により炭素貯留が認められた場合の効果を分析できる産業連関表を開発し,その効果について分析を行った。その結果,2005年の日本全体の家計の食料消費が誘発したCO_2排出量のうち,炭素貯留によって5.74%を削減できることがわかった。また,炭素貯留分のCO_2が排出権市場で売買された場合,その価格を2000円/t-Cとすると,米部門では11.5億円程度(メタン発生を加味した場合)の売却益が見込まれると計算された。またその売却益で,有機農法に伴う人件費の上昇をどこまでカバーできるかを試算したところ,米については1.7%,野菜については0.56%程度の人件費の上昇ならばカバーすることができ,有機農法化をしても価格引き上げをしないですむことがわかった。炭素貯留分析用産業連関表の推計結果は,上述の外食サービスに関するLC-CO_2の算定に関わる分析研究において活用された。 隠す
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