研究概要 |
非定形項とは,主格によって示される文法的な主語を持たない,従って,いかなる時制や法によっても特徴づけられていない動詞表現のことである。こうした動詞表現は,とりわけ願望や要求の動詞のもとに現れる(例:he wished/ordered me to come)。言語学では,これらがどの程度that 節のような文的表現であるのか,また,非定形の動詞の論理的主語が上位にある動詞のいずれの項と同一指示であるのかについて議論が盛んであるが,前者は統語論,後者は語用論に属する問題とされており,事情はドイツ語でも同様である。もっとも,ドイツ語には結束と非結束の不定詞が存在したり,コントロールのシフトがより広範に見られたりするなど,より複雑で興味深い現象が認められる。そこで,本研究ではドイツ語に焦点を当て,上述の統語論的な問題と語用論的な問題とを語彙意味論の理論に基づいて包括的に扱うことを試みた。語彙意味論とは,表面的に1語であるwishやorderといった動詞を下位述語に分解する理論である。ちょうど使役と反使役の交替にとって重要である,よく知られた2つの関数DOとCAUSEとに準ずるかたちで,願望の状況を表すVOLと義務づけの状況を表すOBLとを有効な関数として提案し,これらの関数によって非定形動詞とその論理的主語のさまざまな実現形式のパタン(広義の態)を捉え直した。
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