研究概要 |
本研究における初年度は,予圧縮後の引張り塑性変形能への繰返し荷重の影響について明らかにするための,試験・計測システムを構築した。また,本システムを用いて予備的試験を行い,問題点を抽出・改善して試験方法を確立し,良好な試験結果を得ることが可能なことを確認した。第2年度は,試験・計測システムを改善し,荷重制御によって準静的に圧縮・引張り試験を自動で行うようなシステムに改造した。このシステムを用いて,載荷速度0.002Hzで,1回,10回,100回繰返す圧縮・引張り載荷試験を行い,その後の破断伸び性能が載荷回数ごとに異なることを明らかにした。また,数値解析モデルを作成し,予備的な計算を行った。最終年度は,作成した「圧縮塑性変形と引張り塑性変形を繰返し与えた後の伸び性能の変化」を計測する試験システムを用いて,溶接構造用鋼と建築構造用鋼の繰返し圧縮・引張り塑性変形が繰返し回数ごとの破断伸びへの影響を明らかにし,圧縮塑性変形や応力集中が大きいほど,圧縮・引張り塑性変形の繰返し回数が多いほど,その後の破断伸びが低下することを明らかにした。さらに,溶接構造用鋼の繰返し圧縮・引張り試験による破断伸び性能の限界値を用いて,数値解析モデルによるき裂先端の圧縮ひずみとその後の引張りひずみを求めて,疲労き裂伝播シミュレーションを行い,疲労き裂伝播試験結果と比較した。その結果,一定荷重振幅の場合の疲労き裂伝播試験結果よりも低速側にあるものの,疲労き裂先端の力学的環境と材料の限界値を比較することによる疲労き裂伝播の評価法を開発するという,本研究の目的を達成することができた。さらに,一定振幅荷重で伝播中にスパイク荷重が作用して,疲労き裂伝播が遅延する現象もシミュレートすることができた。
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