研究概要 |
Barrett食道におけるfatty acid synthase(FASn)発現とその意義、逆流胆汁組成のBarrett食道の病態に及ぼす影響について内視鏡的臨床研究とBarrett腺癌cell line及びラットBarrett食道モデルにおける基礎検討を中心に研究をすすめた。内視鏡的にBarrett食道を有する症例のBarrett粘膜を生検し,免疫染色及びRT-PCRにてFASnの発現の有無をチェック,種々の臨床的及び病理組織学的因子との関連を多変量解析した。その結果,FASnの発現は逆流性食道炎を有すること,腸型ムチン形質及びCdx2発現,細胞増殖亢進,apoptosis抑制と相関し,その発現がBarrett食道の病態生理・発癌に深く関与する可能性を示すことが判明した。一方で,Barrett食道の病態は胃酸のみならず,逆流胆汁によっても規定されると報告されるが,その詳細については明らかにされていない。胃ではFASnの発現が胆汁逆流と関連する腸上皮化生に強く認められることから,Barrett食道においても,胆汁とFASnとの関与が示唆される。そこでBarrett食道cell lineにおけるFASnの発現は,酸の単独添加よりも有意に胆汁との混合添加時に高濃度に観察され,Barrett食道の病態に及ぼす因子としの胆汁の意義は,重大なものがあることを確認し,これをFatty acid synthase expression in Barrett's esophagus:implications for carcinogenesisとしてJ Clin Gastroenterolに発表した。また,kruppel-like factor 4を介したBarrett食道発現系の検討でも,同様に胆汁の役割は大きく,これもGutにRoles of Kruppel-like factor 4 in oesophageal epithelial cells in Barrett's epithelium developmentとして報告した。最後に臨床材料において,内視鏡的Barrett食道及び逆流性食道炎の有無と胃内逆流胆汁の胆汁酸組成との関連を検討した。その結果,疎水性の胆汁逆流は逆流性食道炎を介して食道粘膜の障害に関与し,その結果,BMP-4発現由来のバレット食道発生において初段階で影響を与える可能性が示唆されるとともに,COX-2発現や細胞増殖亢進による発癌過程への関与も証明された(Dig Liv Dis : Impact of the composition of gastric reflux bile acids on Barrett's esophagus)。そして,これらのプロセスは親水性胆汁酸であるUDCA投与にて軽減される可能性も判明し,今後の研究に続くものであった。
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