研究課題
基盤研究(C)
ミトコンドリア透過性遷移孔(MPTP)の開口と、それに続いて起こるミトコンドリア内膜電位(ΔΨ_m)消失は、心筋虚血再灌流のさいの心筋細胞死の重要なステップであり、活性酸素(ROS)とカルシウムがこのステップの二大調節因子である。我々は、虚血再灌流を施された灌流心におけるROS、カルシウム、ΔΨ_mの三者の間の時空間的関連を細胞レベルで可視化する目的で、二光子レーザー顕微鏡を用いたリアルタイムイメージングを用いた。虚血再灌流時には、ROSは主に虚血早期に産生されて細胞に蓄積していくが、その蓄積速度は細胞によって大きく異なっており、そのROSレベルの多寡によって非可逆的ΔΨ_m消失がall-or-none様式で起こった。細胞カルシウムレベルは、ROSの増加に平行して起こるが、ROSレベルがある閾値に達すると急激に上昇した。虚血プレコンディショニングは、これらROSとカルシウムの双方を増加を鈍らせることでΔΨ_m消失を防いでいた。抗酸化剤はROSの増加は抑えたがカルシウム増加は抑制できず、ΔΨ_m消失を防ぐ効果が見られなかった。このように、ROS上昇を抑えるだけでは心筋細胞保護効果は得られず、ROSとカルシウムを両方とも抑制することが心筋保護効果に必要であると考えられた。上記のごとく、MPTP開口は心筋虚血再灌流のさいの心筋細胞死の重要なステップであり、これが心筋保護治療の標的として有望である。我々は、MPTPの構成分子のひとつであるサイクロフィリンD(CyPD)を、RNA干渉を用いた遺伝子サイレンシングで選択的に抑制することで心筋保護効果が得られるかを検討した。CyPDを非活性化するsiRNAを産生するように設計した組換えアデノウィルスを作成し、これをラット心臓に直接心筋内注入して感染させ、この心臓を数日後にとりだしてランゲンドルフ灌流し、二光子レーザー顕微鏡を用いたリアルタイムイメージングに供した。虚血再灌流下のΔΨ_mを経時的にモニタリングすると、CyPD-siRNAを発現する細胞においては、発現していない細胞に比べて明らかにΔΨ_m消失は起こりにくく、CyPD-siRNAの心筋細胞保護効果が認められた。また、この保護効果には用量依存性がみられた。この新たな二光子イメージングの実験系は、心筋虚血再灌流時の細胞死のメカニズムの解明において有用性が高く、また細胞死を防ぐ心筋保護治療を確立する上でも有用である。
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