研究概要 |
近年,化学療法の進歩と共に高度進行胃癌に対する術前化学療法が奏功し手術可能となる症例が増加している.今回われわれは組織マイクロアレイ(TMA)および免疫組織化学染色(IHC)を用い,化学療法による治療効果・臨床病理学的特徴について検討した.2000年12月~2007年12月まで,胃癌に対するTS-1を含む術前化学療法を施行し切除しえた計30例(男:女=22:8,平均61.2歳)を対象とし,治療前後の腫瘍サンプルからTMAを用いてp53,MIB-1,pancytokeratinの免疫染色を行った.レジメンはTS-1単独:5例,CDDP併用:17例,CPT-11併用:4例,TXT併用:3例(うち2例はi.p.),CDDP+CPT-11併用:1例であった. 【結果】組織学的効果判定はGrade 0:7例,1a:16例,1b:2例,2:5例であり,臨床的効果判定別に見ると,PR症例では0:4例,1a:5例,1b:1例,2:2例,IR/SDでは各々2,4,1,3例,PDでは0,4,0,0例であった.Grade 3は判定していない.組織型の内訳はtub2:46.7%,por1:16.7%,por2:23.3%,muc:6.7%,sig・scc:各3.3%であった.HE染色では核濃縮・細胞質の好酸化・線維化・空胞化など多様な組織像を呈していた。化学療法前後の免疫染色における比較では,p53では変化のないものは63.3%,染色性の低下が36.7%であったのに対し,MIB-1では76.7%,pancytokeratinでは63.3%で染色性が低下していた.染色性の増加はpancytokeratinの一部でのみ認められた.組織マイクロアレイ(TMA)は,多数の検体を組織レベルでの形態情報を失うことなく蛋白発現の局在や程度を観察できる技術である.化学療法後の免疫染色、特にMIB-1では染色性の低下を高率に認めたが,組織型の違いによる染色性に明らかな傾向はなかった.臨床的に効果があった症例でも組織学的には顕著な効果が認められない,あるいはその逆の現象も確認された.必ずしも臨床的効果と組織学的効果が相関しないことから,さらに症例を蓄積して検討する必要がある.
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