研究課題
基盤研究(C)
破骨細胞分化因子(Receptor Activator of NF kappa B Ligand ; RANKL)は破骨細胞形成を促し破骨細胞形成抑制因子(Osteoprotegerin : OPG)はそれを抑制するが、骨への影響だけでなくOPGの欠損は動脈硬化を引き起こすことが報告された。Wntシグナルは、細胞の分化・増殖を制御する分子であるが、Wntシグナルの活性化はOPG発現を上昇させRANKLを抑制することが知られている。本研究では研究期間内に歯周炎および動脈硬化巣におけるRANKL発現の上昇を確認し、RANKL発現が歯槽骨吸収や動脈硬化促進に関与する可能性、さらに歯周病原細菌が血管局所のRANKL発現に関与している可能性を検討すること、さらにWntシグナルを増強しOPGがRANKLよりも優位な状態を作るという新規治療を開発することを目的として研究を行った。本研究の結果、歯周炎組織ではOPGよりもRANKLが優位で歯槽骨吸収を亢進させており、腹部大動脈瘤の組織では、動脈硬化が見られる病変部組織から歯周病原細菌が検出され、また細菌が検出された組織ではRANKL発現の亢進が認められたのに対し、健康な血管からはRANKL発現の亢進は見られないことが明らかとなった。また歯周病原細菌のLPSは血管平滑筋細胞のRANKL発現を亢進させ、またRANKLは血管平滑筋細胞におけるMMPの発現を上昇させた。これらの結果から骨吸収にRANKL発現の上昇が関与するだけでなく、さらにRANKL発現の上昇は血管における腹部大動脈瘤と関わる可能性も示唆された。次に培養細胞を用いてWntシグナルの変動、OPG発現の変化などに対する薬物の効果を検討した。WntシグナルをsiRNAで抑制するとOPG発現の低下が見られるのに対し、食用として用いられる安全性の高いクルクミンによって歯肉線維芽細胞や歯根膜細胞等の様々な細胞でOPG発現は上昇し、RANKLを抑制できることが明らかとなった。これらのことからWntシグナルのコントロールによって歯周炎や腹部大動脈瘤を抑制できる可能性が示唆された。
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