研究概要 |
昨年度に,従来法であるシェッフェの一対比較法(浦の変法)を基本として,効率的な感性評価を行うダイアゴナル一対比較法を提案した.従来法は評価対象となる資料数の2乗に比例する判断回数の実験規模が必要であるのに対して,提案法では資料数に比例する規模の実験で主効果,主効果の個人差,順序効果が検討可能である.本年度は,データの観測方程式における係数行列の階数を調べ,資料数が素数であれば提案法によって全ての解を代数的に求めることが可能であることを検証した.さらに,資料数が素数ではなくとも奇数であれば分散分析に必要な解を最尤推定法により一般式として導くことが可能であり,資料数が偶数の場合にはダミー資料を一つ加えて奇数にすれば十分であることを確認した. また提案手法の有効性を検討するため,音のラウドネスについて聴取実験を行った.実験としては音圧レベルを1dBずつ変化させた21種の刺激音(1kHz正弦波)を資料として用意し,20名の被験者が,継時的に提示された二つの刺激についてラウドネスの相違を7段階尺度で評価した.実験結果を従来法(浦の変法)と提案法で分散分析した結果,資料の主効果(音圧レベルの変化によるラウドネスの相違)および順序効果(提示順序によるラウドネスの相違)について両手法で有意性が一致し,また推定された尺度値(ラウドネスの値)も良好な一致をみた.ただし,主効果の個人差については,提案法は検定力が弱いことが示唆された.これは,提案法では効率的測定を行うためデータ数が少ないことに起因するものであるので,提案法による反復実験(規模としては資料数に比例)を行うことで検定力を向上させることができると考察した.以上から,提案法は資料数が多い場合のスクリーニング実験には特に有効であることを示した.
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