研究概要 |
本研究は細胞膜上の糖鎖構造(グライコカリックス)が物理的なせん断刺激を生化学的な反応へと変換する感力センサーであることを医学(分子生物学)と工学(バイオメカニクス)の有機的な共同研究により明らかにし,糖鎖のもつ新たな生理的機能を提示することを目的として開始された.昨年度,血管内皮細胞を単糖により処理することにより細胞膜表面に存在するタンパク質の糖鎖構造が大きく変化することを新たに見出した.そこで,本年度は糖鎖構造を改変した細胞に対して流れ負荷を加えたところ,正常細胞で認められる配向性に変化が生じることが明らかとなった.これまでは,グライコカリックスと呼ばれる巨大な糖鎖構造が流れ刺激を関知するセンサー的な役割を果たしているとの報告がなされてきたが,本年度の研究からタンパク質の翻訳後修飾を担っている糖鎖構造(主にアスパラギン結合型糖鎖)の改変により,細胞のせん断刺激に対する感受性が変化することを示した. 細胞膜表面タンパク質に付着した糖鎖構造は,細胞間接着や細胞-基板間接着にも関わっていることが知られているが,糖鎖構造の変化が細胞間,あるいは基板との何れの接着力に関与しているのかを検討するため,まず細胞間接着力測定手法の開発に取り組んだ.細胞間引張破断試験方法を開発し,細胞間の接着強度を測定することを可能とした.測定の結果,糖鎖構造を改変した細胞では,未修飾型に比較して細胞間接着が強固になっていることが明らかとなった.一方,細胞間接着が強固になることは細胞の移動性を阻害することになっていることを示唆するデータも得られ,タンパク質-タンパク質間の接着が糖鎖構造を中間にはさむことにより柔軟性を維持し,細胞の力学応答性に関与していると考えられた.医学と工学の有機的な融合により,分子細胞力学分野ともいうべき研究の方向性を示すことができたことも,本研究の成果と考えられる.
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