研究概要 |
鍼治療は、競技現場で用いられているコンディショニング法の一つで、選手に対して筋緊張や疼痛の緩和、疲労の回復などを目的として行われている。昨年度の課題では、高強度一過性の自転車運動後に生じる唾液分泌型免疫グロブリンA(secretory immunoglobulin A : SIgA)分泌の低下を鍼刺激によって抑制することを示した。これより、鍼刺激は高強度運動後に生じる粘膜免疫能の低下を抑制する可能性が考えられる。しかしながら、運動による免疫応答に対する鍼刺激の影響について、粘膜免疫によるアプローチを試みた研究は少なく、不明な点が多い。鍼刺激が運動による免疫応答にどのような影響を及ぼすのかを検討することは、アスリートの良好なコンディションを維持する上で非常に有用な知見になりうる。2009年度では実際のスポーツ現場における鍼刺激が免疫機能に及ぼす影響について検討することを目的とした。2泊3日の合宿に参加したサッカー選手を対象とし,午前3時間,午後3時間の練習を行い,夕食後に鍼通電刺激を行った.鍼刺激は,上肢の合谷および孔最穴,下肢の足三里穴,顔面部の頬車穴を用いて30分間行った.鍼刺激群の唾液SIgA分泌量は、2日目および3日目のSIgA分泌量は有意に増加した(p<0.05)。無刺激群のSIgA分泌量は、合宿期間中に有意な変動は示さなかった。上気道感染症状の発生件数は、合宿中において無刺激群は4件であったのに対し、鍼刺激群は1件であった。合宿期間中の主観的な心理状態について、無刺激群の緊張、抑うつ、怒り、疲労感、混乱に関する各スコアは有意な変動は認められなかった。鍼刺激群においては、怒りおよび混乱のスコアにおいて有意な低下が認められた(p<0.05)。で以上の結果から、鍼刺激は唾液SIgA分泌の増加と上気道感染症状の減少、主観的な心理状態の改善に関与する可能性があり、鍼刺激は合宿期間中の競技選手のコンディションの調整に有用である可能性が考えられた。
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