研究概要 |
繊維径,ノズル寸法,ろ過速度が異なる慣性フィルタの設計・試作・評価を繰り返し,粉じん負荷にも対応可能な分離径130nmの慣性フィルタを実現した。これを組み込んだパーソナル・ナノサンプラを使用して,(1)JR特急喫煙車両内,(2)道路トンネル内側歩道,(3)バス停,(4)天然ゴムスモークシート製造工場で曝露ナノ粒子を捕集し,粒子中の多環芳香族炭化水素(PAHs)を分析した。また,作業環境では作業者尿中のPAHs代謝物濃度を測定した。これらの検討の結果,発ガン性の指標となるベンゾ-a-ピレンの毒性等価濃度と粒子中比率が,130nm以下のナノ粒子中で最大となること,代謝物濃度と曝露ナノ粒子中のPAHs濃度との間の高い相関性など,健康影響を議論する上での曝露ナノ粒子の特性評価の重要性を明らかにした。 慣性フィルタ性能の改良策として,TEMグリッドを積層化したろ材,およびこれとSUS繊維層を組み合わせたと複層構造に検討を加えた。適切な枚数とグリッド間隙を設定したTEMグリッド積層体とSUS繊維層の組み合わせで,同一圧損・捕集流量条件で,最小分離径約110nmを実現するとともに,複合構造とすることで,グリッド単体構造よりも再飛散・粉塵負荷の影響も低減できることを示すなど,今後のフィルタ構造最適化の方向性を明らかにした。また,ナノ粒子分級を高性能化する繊維形態,ナノ粒子成分のリアルタイム測定に関する予備的検討も実施した。 これらの成果を,国内外の学会と論文で公表したところ,世界初のナノ粒子個人曝露評価装置およびそれによる評価データとして反響を呼び,共同研究,商品化へのオファーがあるなど,ナノ粒子の生体影響評価用として本装置への関心が高まっている。学会等での議論の機会を通じて粒子モニタリングシステムを手がけるニッタ(株)と協力関係を結び,共同で特許を出願した。今後は本装置のさらなる改良と商品化,本装置の技術をベースにした種々のモニタリング装置への展開を予定している。
|