研究概要 |
持続可能社会のためには,社会と自然との共生,健全な物質循環,人間活動の低炭素化などを実現させる必要がある.本研究では,流域を地域の基本構成単位として捉え,内部エネルギーや流量など自然環境インパクトが河川流域を伝播する機構を明らかにし,流域圏社会の再生に資する環境解析手法を構築した.まず,揖保川流域の水温観測と解析に基づいて河川水系の水温分布が再現され,環境因子としての水温形成機構と流域内の伝播特性が明らかにされた.次に,生態系を規定する河床材料,社会経済活動を反映する土地利用や人口,水資源賦存量などの社会・自然環境因の分布構造が流域ネットワークを規定する地理情報パラメータによって記述され,流域内の自然共生度や環境平衡性を定量解析するための方法論が構築された.さらに,将来の気候変動が流域環境におよぼす影響を予測するために,IPCCシナリオに基づく水温予測解析を実施した.流域で展開されるその他の社会・自然環境因子におよぼす気候変動の影響に関しても,本研究で確立された解析手法を適用し得ると考える.気候変動にともなう水温解析は連続観測を実施する揖保川水系に限定されるが,地理情報に基づく流域環境因子の解析に関しては全国109の一級水系を対象として解析しており,社会環境要素としての土地利用・人口と自然要素としての流域地形特性との間に非常に明確な相関関係が見出された.本研究によって,水系毎の社会経済活動や自然環境の分布構造が解明され,統合流域環境管理を実現するために必要な環境情報の分析手法が確立された.本研究の成果を国土経営政策に反映することによって,環境平衡を実現させるための流域圏の人間活動展開のあり方や地域再生・国土グランドデザインのための持続可能な社会発展の方向性が議論し得ると考えられる.
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