本研究は、転写制御を符号論的に解釈した場合に出現する偽発現の概念を提案するものである。偽発現とは遺伝子がシス制御因子のパターンのみに従って発現すると仮定した場合に、純粋に理論上のみで発生する現象である。本年度は前年度に引き続きシス制御因子パターンと遺伝子発現パターンを含むモデル化を行い、シス制御因子のパターン干渉について検討した。前年度までに、プロモーター配列から保存部分配列を検出するようなモチーフ抽出の手法を開発し、比較ゲノムの情報、および既知のモチーフ情報との統合を行うことによって、シス制御因子の推定に関する高精度化を行った。本年度はさらに既知のデータベースとの比較を行い、他の手法に比べても十分な性能を有することを検証した。また、様々な組織の細胞から得られた発現データをもとに、組織特異的モチーフおよび各組織に共通するモチーフの検出も行った。結果、既知の組織特異的モチーフとの相関もみられ、生物学的に十分有意な情報が得られていることが分かった。他方、組織特異的および組織に共通するモチーフは、それを有する遺伝子間の発現量に非常にバイアスがみられ、必ずしも偽発現が起こり得るあるいは起こり得ない証拠を得るまでには至らなかった。しかしながら、本研究で開発したモチーフ抽出の手法は顕著な優位性がみられ、今後のシス制御因子研究の発展に向けて十分貢献しうると期待できる。またモチーフ抽出ソフトウェアは、ウェブアプリケーションとして公開している。
|