研究概要 |
イチヤクソウの栄養獲得様式を明らかにするための端緒として,異なる光環境下で生育する個体の菌根形成とその形成率の季節変化,定着する菌類を調べた.調査は,三重県津市のコナラ・クヌギ二次林で行った.2007年1月から11月にかけて,合計6回,イチヤクソウ3個体ずつを明所,暗所から採取した.採取個体の光環境は,各個体と林外の被陰されない場所における照度の比較にもとづき相対照度として算出した.各個体の根系は,基部,中央部,先端部の3つの部位に大別し,各部位から10~30枚の切片を作成してから,光学顕微鏡観察を行った.根の表皮細胞に貫入する菌根菌菌糸の侵入形態にもとづき6タイプ(コイル初期,コイル,分解初期,分解,コイルなし,デンプン)に大別し,その割合を測定した.上記調査のために採取した個体,さらにDNA解析用に採取した個体の菌根からDNA抽出をしてからITS領域のシークエンス解析を行った.得られたDNA塩基配列はBlast解析を行った.採取した全ての根で菌糸コイルが確認されたことから,イチヤクソウにおいてアーブトイド菌根の形成を明示した.明所,暗所における菌糸コイルの形成率は,それぞれ16.8%から46.2%,14.1%から58.1%と季節によって異なり,上層木により林冠が被覆される5月,7月の夏期において高くなる傾向を示した.菌糸コイルの形成割合は根の部位により異なり,根の先端部から基部にかけて減少する傾向にあった.根に定着する菌種として,現在までに,主としてベニタケ科が推定されている.以上より,イチヤクソウは林床の光環境が悪くなる条件下で菌根形成を,特に根の先端部で高頻度に行なうと考えられた.さらに,イチヤクソウに定着する菌根菌種はいずれも外生菌根菌種と分類学的に同一であるため,上層木のコナラ,クヌギに外生菌根を形成する菌と菌糸を介して繋がっている可能性がある.
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