本年度の研究内容は大きく二つの部分に分かれる。一つは教材(副教材を含む。以下同じ)開発に向けた翻訳作業であり、一つは翻訳作品の教材化に向けた準備作業である。 翻訳作業については、前年度に得たさまざまな提案をふまえ、あまんきみこ氏の「雲」の中国語訳を修正したほか、広島・長崎の被爆体験者の手記の翻訳に着手した。ただ、この手記の翻訳については、原爆の実態についての知識がほとんどない中国の小中学生にはまったく理解できず、感情移入もできないと判断されたので、中途で断念した。その代わり、黒藪次男氏の「少年の目」を翻訳した。これは日本兵と中国人少年の交流を描いた小説であり、人類に普遍的な人間性をテーマとしており、初等教育における国語の教材として中国でも受け入れられる可能性の高い作品といえる。 翻訳作品の教材化に向けた準備作業については、平成23年3月下旬、北京師範大学外国語言文学学院の王志松教授を訪ね、翻訳した作品を提示しながら、教材化の可能性等について協議した。王教授は、日中両国の若者が共通の教材で教育を受けることは相互理解を促進するために有意義なことであるとの見解を示された上で、この種の作品を教科書に載せることははなはだ困難であるが、副教材として利用することは可能だから、その方向で進めるのが適当であるとの意見を述べられた。これをふまえ、副教材として編纂する方法についても協議した。また、王教授からは中国の文学作品の日本語訳の必要性が強調され、今後、協力して日中双方の作品の翻訳を進めることで合意した。 な紅本研究の成果については、23年度以降に公表していく予定である。
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