研究概要 |
局所幾何構造から大域的な構造がどのように決定されるかは、局所幾何構造が均質な場合は等質空間G/Hにおける不連続群の理論として理解することができる。ローレンツ多様体のように不定符号をもつ計量の空間で、モデルとなる大域対称空間G/Hの等方部分群Hはコンパクトでなく、その不連続群がどれだけ存在するかは(G,H)の組に大きく依存する。たとえば、有限群以外に不連続群が存在しないというCalabi-Markus現象が生じる場合もあり、その反対に余コンパクトな不連続群が存在する場合もあることが研究代表者の従来の研究で明らかにされてきた。 さて、不連続群による商空間(局所対称空間)にはラプラシアンなど自然な微分作用素が内在的に存在する。しかし不定値計量のラプラシアンは楕円型ではなくウルトラ双曲型であるため、擬リーマン局所対称空間上のスペクトル解析には従来の手法の根本的な転換が必要となる。この挑戦的萌芽研究では、スペクトラムを具体的に与えることができるような最初の成功例を提示することを目指して研究を行った。 複素3次元射影空間の非有界対称領域には完備な符号(2,1)の不定値ケーラー計量が入る。この幾何構造を保つ余コンパクトな不連続群、およびその変形した不連続群の'ばらつき'を評価することによって、不連続群による商空間の安定スペクトラムが無限個あることを発見した。さらにこの発見を一般化する手法を開発し、Banffの国際研究集会で1時間の招待講演を行った。これらの成功例をまとめた速報をフランス学士院から出版した(第一論文)。
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