研究概要 |
1.2次の非線形項を持つ1次元非線形Klein-Gordon方程式の初期値問題を研究し,修正散乱状態の存在を示した.この研究の難しさは非線形項の階数が臨界べき以下であるところにある.我々は方程式にShatahによって提唱されたノーマルホーム法と呼ばれる非線形変換を用いて非線形項の階数を3次に変換し,変換されたこの方程式を研究対象とした.しかしこの問題は新たに微分の損失という困難さを生じる.また3次の非線形項には時間減衰の悪い共鳴項と良い非共鳴項が混在することを考える必要がある.方法としては方程式に関連のある作用素,古典的エネルギー法,共鳴項を非線形項から取り除くための位相関数の導入,非共鳴項からよりよい時間減衰を引き出すための振動項の利用を応用した.この結果は国際雑誌I Advances in Mathematical Physics,2010に発表されている. 2.3次元Dirac-Klein-Gordon方程式系の研究を行いの波作用素の定義域および値域が一致するような関数空間をみつけた.その結果散乱作用素の存在を示すことに成功した.Dirac方程式は時間に関して1階の方程式である一方,Klein-Gordon方程式は時間に関して2階の方程式である.このことによって我々の結果は,Klein-Gordon方程式糸に関しては知られていた結果であるが,新しい結果といえる.この結果は国際雑誌I Math.Methods Appl.Sciences,2010に掲載が決定している. 3.非線形Klein-Gordon方程式散乱作用素の非存在に関してはGlassey,Matsumuraの結果が最初の仕事としてあげられる.しかし非線形項は2つの波に線形結合と考えられるため初期値に付加的な条件を付ける必要がある.この点が非線形Schrodinger方程式と異なる困難さとなっている.我々は1次元非線形Klein-Gordon方程式の解の性質を詳しく調べることによってこの条件が不要であることを1次元に限って示した.この結果は研究会「偏微分方程式と数理物理学」で公表した.
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