研究概要 |
我々は超高圧その場での1H(水素)の高分解能NMR測定の圧力記録を更新しつづけている。これまでの実績よりも,さらに高圧力でのNMR測定を実現することで,地球惑星物質中の水素のダイナミクスに関する現象を新たに発見することが本研究の目的である。そこで圧力5GPa以上において,信号強度の減少や,穿孔したダイヤモンドアンビルの強度の減少を補う新しい測定技術の開発を試みた。そのテストケースとして地球内部における代表的な含水鉱物の一つである、ブルーサイト・Mg(OH)2の1Hの高圧その場NMR測定を実現した。 MS(OH)2は水素結合の状態変化が起こる圧力が比較的低いことが予測されており、また含水鉱物の中では水素濃度が最も高い。このような測定上の利点があるので、比較的容易にNMR分光が実現されると考え、含水鉱物としては最初の試料として挑戦した。これまでに取得に成功した、その粉末多結晶試料の6GPaまでのstatic 1H-NMRスペクトルでは、主ピークの半値幅が常圧よりもわずかに増加した。理論計算によると、Mg(OH)2の水素配置は、圧力と共に(1) nearly ordered、(2) dynamic disorder、(3) static disorderの順に変化する。このうち(2)の段階での水素の移動開始に伴う線幅の減少の観測を試みたが、測定圧力がまだ相転移には不十分であることがわかった。圧力により水素の移動が誘起されるこのような現象は、含水鉱物の構造相転移と水素輸送の理解にとって本質的である。
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