研究概要 |
磁性金属を内包したフラーレン,すなわち量子スピン系フラーレンを創製することを目的として,前年度までの成果を基に,ニッケルイオンのフラーレンへの照射実験と解析を行った.本年度は特に,ニッケルイオンの照射エネルギーを制御し,ニッケル内包フラーレン(Ni@C_<60>)が高効率に形成される条件を詳細に調べた. 1.フラーレンを堆積させる基板の電位を変化させた場合でも,プラズマ空間電位は変化しないことを実測し,空間電位と基板電位との差で加速されるニッケルイオンのフラーレンへの照射エネルギーの制御が可能であることを示した. 2.合成したNi@C_<60>を含有する試料をレーザー脱離飛行時間型質量分析器で解析し,Ni@C_<60>に相当する質量数778m/zのピーク強度のニッケルイオン照射エネルギー依存性を調べたところ,Ni@C_<60>の合成効率がイオン照射エネルギーに顕著に依存し,35~40eVの場合に最大となることが明らかとなった.このイオン照射エネルギーの最適値は,第一原理計算を用いたNi@C_<60>合成のシミュレーションの結果と類似していることも明らかとなった. 3.合成された試料を硝酸と混合・撹絆し,C_<60>球殻の外側に付着しているニッケルを除去した場合にも,質量数778m/zのピークが検出されたこと,並びにニッケル外接C_<60>の合成実験を行った結果からは,質量数778m/zのピークが検出されていないことから,本研究において検出された質量スペクトルはNi外接C_<60>由来のものではなく,Ni内包C_<60>のものであると考えられる. 4.純度向上プロセスに必須のNi@C_<60>が溶解する溶媒を探索したところ,クロロナフタレンに僅かに溶解することが判明し,高速液体クロマトグラフィによってNi@C_<60>を分離精製する基盤を確立した.
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