研究概要 |
有機分子が集合し結晶化すると、その過程で分子の持つ多様な情報は選別されて結晶中に記憶される。その最も有益な情報の一つに不斉情報がある。溶液中では不斉の無いアキラルな分子が結晶化により不斉結晶を形成すると、構成分子はその分子配座や配列がホモキラルな環境になる。そのキラルな有機結晶は、固相状態での不斉反応や立体規則的な反応などの合成化学的な研究や非線形光学材料へも利用されている.我々はその不斉結晶場を用いた固相光反応による絶対不斉合成の成功例を過去に数多く報告してきた。さらに近年、不斉結晶を低温溶液に溶解させることで結晶中の不斉情報を溶液中でも記憶させておくことに成功した。結晶中の不斉を溶液中の新たな均一系不斉反応に展開できたことで高い評価を得ている。ただし、これらの一連の不斉反応に一番の障壁となるのは、如何にしてアキラルな基質から高い割合で不斉結晶を得るかである。本研究では、これまでの我々の経験と実績をもとにして、新しいキラル結晶化の場として超臨界流体を用い超臨界流体の条件を変化させることで、極性と結晶多形や結晶構造の変化を調査し,超臨界流体中でのキラル結晶化の可能性を明らかにした。さらに,超臨界流体中でのエピ化優先晶出による軸不斉化合物の完全分割の可能性を探った。基質として,ナフトアミドやクマリンカルポン酸アミド,ピリジンカルポン酸アミドのキラ結晶化を検討した。さらに超臨界流体の性質を活用し、ラセミ化速度を制御した軸不斉化合物のラセミ化優先晶出法への大きな展開を目指した。基質としては核酸塩基の誘導体であり,医薬品としても有用性の高いピリミジノンおよびピリミジンチオンの窒素原子上に芳香環を置換し,二つの芳香環の捻れに基づく軸不斉を超臨界中で制御しラセミ体の完全分割を行った。
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