研究概要 |
本研究は,転位や界面のような一次元もしくは二次元ナノ格子欠陥に捕捉された「究極の軽元素」である水素の空間分布を,透過電子顕微鏡(TEM)に付随する分析技術を応用して高空間分解能で可視化する汎用的な手法開発の試みである. 本年度は特に比較的最近開発された水素吸蔵材料であるAlH_3について、電子線による損傷のためにこれまで困難であったTEM観察および電子エネルギー損失分光スペクトル測定を可能にし、その分解過程と電子状態変化をその場観察することに成功した。これによってAlH_3単結晶試料が、金属アルミニウム微結晶集合体へと分解すること、単結晶粒の表面には3-5nmのアルミ酸化物層(非晶質アルミナ)が形成されており、このことによってAlH_3が大気中でも分解せずに比較的安定に存在していることが明らかになった。またAlH_3相のAl-L_<2,3>吸収端スペクトルと第一原理量子化学計算によるスペクトル予測を比較し、Al-H結合に特有なピーク位置、形状を再現することができ、さらにこの材料におけるAl-H間の結合が共有結合的であることがわかった。これらのことは水素を直接見るのではなく、水素が周囲の元素と結合を作り、このことによって結合した元素の電子状態を大きく変えることを利用して、水素の分布を可視化する可能性を拓くものである。
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