研究概要 |
プリオン病治療法の確立を目的として、骨髄由来間葉系幹細胞(Bone marrow-derived Mesenchymal stem cells, MSC)のプリオン病の治療への応用について、プリオン感染マウスをモデルとして検討した。ヒト不死化MSCs(hMSCs)を、Chandler株感染マウスが初期の臨床症状を呈する接種後120日に海馬に移植した場合、非移植対照群(150±2日)と比べて潜伏期が有意に延長した(157±6日)。また、hMSCsを尾静脈から移植した場合、非移植対照群(148±6日)と比べて潜伏期が有意に延長した(158±6日)。hMSCsを移植したマウスでは、PrP^<Sc>の蓄積量は対照群と比較して差は認められなかったが、空胞変性は軽度であった。従って、hMSCsはプリオンの増殖は阻害しないが、病気の進行に抑制的に働くことが明らかとなった。hMSCsはプリオン感染マウス脳内で、神経細胞様、アストロサイト様、およびオリゴデンドロサイト様の細胞に分化したが、その効率は低いことから、hMSCsの移植による潜伏期の延長は、bystander effectによるものと考えられた。 hMSCsはいずれのルートで移植した場合でもプリオン病の神経病変へ移行したことから、hMSCsがプリオン病の神経病変部に移行するメカニズムを調べるために、in vitro走化試験をスクリーニング系として用いて、サイトカイン、ケモカインおよび栄養因子およびそれらのレセプターの関与を調べた。その結果、CCR3,CCR4,CCR4およびCXCR4のケモカインレセプターとそのリガンドがhMSCsの走化に関与していることが示唆された。プリオン感染マウスの視床に移植したhMSCsは脳梁を通って、反対側の海馬へと移動するが、移植後、脳梁に存在するhMSCsではCCR3,CCR4,CCR4およびCXCR4のケモカインレセプターが発現していたことから、実際の神経組織においてもCCR3,CCR4,CCR4およびCXCR4およびそのリガンドは、hMSCsのプリオン病病変部の走化に関与することが明らかとなった。
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