研究概要 |
われわれが独自に作製したヒトERas抗体を用いた免疫組織染色を胃癌142症例に行い,ERas発現を臨床病理学的に検討した.ERas発現と組織型の間には有意な相関は認めなかったが,リンパ節転移(p<0.05)および肝転移(p<0.001)と有意な正の相関を認めた.分子生物学的検討からは,ERas発現により胃癌細胞の転移・浸潤能が増強することが示された.またERas発現による胃癌細胞の形態変化,FibronectinやVimentinなどの間葉系マーカーの発現増強,E-cadherinなどの上皮マーカーの発現抑制などから,ERasは腫瘍転移の重要なメカニズムの一つとされている上皮間葉移行を誘導することが示唆された.以上の結果から胃癌においてERasは,上皮間葉移行を誘導することにより転移能を獲得していると考えられた.なおsiRNAを用いた検討では,ERasのkockdownにより間葉上皮移行が誘導される結果が得られた. ヌードマウス(BALB/c Slc-nulnu)を用いた腫瘍皮下移植モデルの検討では,ERas高発現胃癌細胞株で腫瘍形成能および増殖能が有意に増強されていた.また免疫不全マウス(Nod-skid mouse)を用いた転移モデルの検討から,ERas高発現胃癌細胞株では有意に転移能が増強されており,臨床病理学的検討および分子生物学的検討の結果を支持するものであった. 以上の結果から,胃癌においてERasは,浸潤・転移を誘導する重要な因子の一つであり,胃癌の予後診断マーカー,胃癌治療の標的因子となりうると考えられた.
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